「号」についての考察

諸外国の事情は知りませんが、日本に於いて油彩作品の価格は概ね「号数」によって決められる様です。
作家毎に設定された「評価額」というものがあり、それはつまり1号あたりの販売価格で、仮に「号5万」という評価額の作家が10号の作品を描いたならば、50万円で販売されるという事になります。
号数が販売価格の算出に直結し、また作家が頂く画料も号数で決まるという事です。
では「号」とは一体何なんでしょうか。
一般的には大きさの基準と考えられている様ですが、実は「基準」となり得るシロモノではありません。

▼キャンバスサイズ一覧(クリックで拡大表示下さい)
数値はマルオカHPを参考。
(5号や130号はマルオカ独自規格でしょうか。画材屋で見たことありません。)
注目は次の表から。
▼左:号数毎の面積 右:各号Fの面積を1とした場合のS,P,Mとの面積比通常、作品の価格、画料については各号F、P、Mとも変わりなく、なぜかSについてのみ「面積が広いから」との認識からか、若干高めに設定されます。
各号の面積を比べてみると、疑問に思いませんか。
右表の紫色で示した8、10、100号に至っては、FとSの比率よりFとMとの比率の方が開きがあるのですが、これらに限ってMは安くするという話は聞いたことがありません。
また左表オレンジ色で示したものは、号数で面積が逆転するものです。
つまりM2号よりもF1号の方が広く、M8号よりF6号の方が広いのです。
ところがF、P、Mは同価格という慣例から、M8がF8より安くなる事も無ければM8がF6より安く設定される事も無い様です。
キャンバスの規格がよくわからない数値な為、価格の決め方もいい加減に成らざるを得ない様です。
仮に”本当に面積で”価格を決めるとなると、各号、またS、F、P、M間の面積に相関性はないので全てに各々設定しなければなりません。
▼F1号を1とした場合の面積比
F2号はF1号の倍ではなく、P4号でようやく倍程度の面積です。
F100号はF1号のおよそ60倍の面積になります。
良く「1号はハガキ一枚分の大きさ」などと言いますが、ありゃ間違いです。
号は面積の単位にはなり得ません。
面積でなければ一体なにか。
現状で最も適切な答えは「長辺の長さ」でしょう。
10号の長辺は530mmです。これはS,F,P,Mどれも変わりません。
また10号の長辺とF6号の短辺318mmを組み合わせた場合、これは慣例的に「10号変形」と呼びます。
M6号の短辺242mmと組み合わせても「10号変形」。
ある程度までは価格もF10号と変わらない様ですが、短辺の長さがどれくらいになるまで価格は変わらないのか。
短辺の長さが1cmであったとしてもそれは「10号変形」になるのか。
それは知りません。
上記の様に「号」というのは、実はよくわからんものです。
号数のみで値段を決めようという行為はむちゃくちゃであり、破綻しています。
そもそも面積で作品の値段決めようって事自体バカげてると思いますが、
作家も画商も「号」は基準とはなり得ない事を理解した上で参考値程度にとどめ、価格なり画料の交渉には他の要素を十分加味し、柔軟性をもって臨むべきでしょう。
実はキャンバスサイズの規格には国際規格なるものが存在しており、そちらは号数毎の面積比などキッチリ比例しており、号数が異なると縦横比が異なるなんて事もありません。
しかし国際規格の木枠など画材店で見たことがありませんし、誰かが使ってる話も聞いたことがありません。
合理的で優れた規格でも、現行の「号」から外れる為、保守的な画商は価格設定などに困るでしょう。
また公募展でも現行の号を基準に規定のサイズが決められる為、国際規格などでは規定に収まらない可能性もあります。
既成額縁も国際サイズのものなどありはしませんから、難儀する事になります。
誰も使わなければ店にも置かないし、また取り寄せても割引がきかなかったりして、悪循環で普及しないんでしょう。
ここは現行「号」に異論を唱えるわたくし自らがそういうものを積極的に使っていくべきでしょうか。

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“「号」についての考察” への6件のフィードバック

  1. SECRET: 0
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    戦後の尺貫法の改正で変えられたので、業界全体の声になれば
    変えられそうですけど、現状ムリっぽいですねえ?。

  2. SECRET: 0
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    >古吉さん
    フランスから「号」が入って来た折に尺寸に置き換えられ、さらにメートル法になおされましたから二重変換されてるんですよね。
    でもその誤差は計算してみると10号で数ミリ程度なんです。
    ここまで大きく比率が異なるのは別の原因で、異なる号数間で木枠を流用できる様、長さをムリヤリ揃えているところからムリが生じて縦横比や面積のばらつきが生じているのですが、これはフランスで規格が生まれた頃からなのかどうなのか…(たしか資料があったハズですが)

  3. SECRET: 0
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    白日、入選されてましたね。おめでとうございます。
    何か賞もとれてるといいですよね。

  4. SECRET: 0
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    コメント遅くなりましたが、お礼を言わねばなりません。某サイトでご質問させて頂いた表題をここまで詳らかにご考察頂いていたとは思いもしませんでした。本来なら自身が質問サイトのようなところに頼らずこうした地道な考察をするべきでした。この場をお借りして感謝いたします。ありがとうございました。
    さて、表題についてですが、自身教育の場に携わっている以上曖昧な発言はできない為、疑問点に関して皆様のご協力を頂いた次第です。やはり規格という名ばかりの不整合なものだったのですね。古い歴史の中、業界に脈々と伝えられたものである以上もう少し確りとした基準であって欲しかったですね。黄金比を基に芸術を幾何学解釈する先人の試みも現在澱んでしまったことは大変残念なことであります。現状を踏まえ、創作する際の指標を新たに設ける必要性を感じました。
    サイトを閲覧させて頂きましたがDIYありのコアな技法実験ありですごく面白いですね。同い年ということでいつかお目に懸かれればと願っております笑。
    長々とコメントを綴ってしまって申し訳ございませんでした。

  5. SECRET: 0
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    >ラッセンさん
    あちらでご呈示の質問内容は、いくらか市販の木枠でもって制作をしていれば当然湧いてくる疑問でありますし、むしろその疑問点が問題として取り上げられる機会も是非を議論する機会もあまりにも少なすぎるというのが私の所感です。
    当ブログの内容は私が個人的に常日頃興味のある事などを勝手に記事にしているものです。
    今回の内容も実はたまたまラッセンさんの掲示板での発言と時期が重なっただけでして、むしろ他の方の知識や意見を伺う機会を得たこちらが感謝するべきかも知れません。
    お礼はあちらの方へなさってください。
    もはや疑問は解決されたかも知れませんが、あちらの掲示板で木枠の事などについてはもうすこし触れようかとも思います。
    当ブログにも興味を示して頂きありがとうございます。
    お目にかかれる機会がありました時にはよろしくお願いします<(_ _)>

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