目止め(サイズ)について <2> 目止め検証

亜麻生地に油が接触すると後々酸化によって劣化してしまう …という事はよく言われる事で、油彩画において油の浸透を遮断する「目止め=サイジング」は物理的に重要な要素の一つではないかと思います。

実際に「油の浸透が原因で劣化してしまった」と”断定できる”キャンバスを(自分の作品含め)見たことは無いのですが、市販キャンバスの目止めは十分なのか、またどの程度の目止めを施せばよいのか、十分な検証はなされているでしょうか。

さてここで冒頭に載せた画像の説明です。
目止めのみが施されたキャンバス片を3つ並べていますが、左から、
・フナオカ製ウサギ膠引きキャンバス
・同キャンバスにウサギ膠を1回塗布したもの
・同キャンバスにウサギ膠を2回塗布したもの
の順で板に貼り付け、それぞれにリンシードオイルを一滴たらし傾けた状態で数十秒放置したものです。

角度を変えてみます。
裏側から。
目止めを重ねて塗布したものの方が染み方はゆるく吸い込まれなかった油が表面に多く残りますが、結果的に全てのサンプルにおいて油の浸透を完璧に防げてはおりません。
もちろん実制作で目止め層の上にいきなり油をぶっかける事などは無いでしょうが、膠の遮断効果たるやこんなものなのか、そしてそもそも目止めとはこの程度のもので良いのか。

次にクレサンのサンプル帳に入ってますグルーキャンバスにも同様の実験。
こちらは天然の膠ではなく「特殊配合グルー」による目止めとの事です。
一番左は同じクレサンでも日本で生産されているA-LINEシリーズのグルーキャンバス。A-LINEは「ベルギーCLAESSENS社とは異なる弊社独自の製法からなる」との事です。
一番右は冒頭にも書いたフナオカ製ウサギ膠引きキャンバス。
真ん中3つがベルギークレサンのグルーキャンバス各種で(もっとたくさん種類ありますが適当に選んでます)、見るからに目止めの厚みと塗り方がフナオカ、クレサンジャパンとは異なります。
ベルギークレサンの特徴的な凹凸はローラーによるものだと思いますが、目止めもローラーで塗っているのかなと。




分厚い目止めが施されたベルギークレサンのものも完璧ではありませんけど、クレサンジャパンとフナオカに比べると染み方がまるで違う。
なんだかこれだけ見ると日本の製品は目止めに対する意識が低いのか?という気もしますが、サンプルが少なすぎてそこまでは言い切れません。

実はこのテスト、目止め層自体の遮断性を単純に染みの広がりだけで判断できるものではありません。
何回か同じテストを繰り返すうちに気づきましたが、目止めに入ったヒビやキズ、もともと目止めが不完全な部分など、どこか一箇所にでも不備があればそこから油はどんどん染みこんで毛細管現象により広がっていくため、目の詰んだキャンバスほど染みが広がる傾向にある様です。
よって染みの大きさが目止め層自体の強弱を直接的に示すものでは無いという事を念頭においてお考え頂きたいです。

↓こーゆーこと

ともかく実制作においてはこの上に地塗り層が置かれてその上に絵具が乗るわけですが、その地塗りが「油性地」である場合、当然油が含まれるわけでして、果たして油を塗って染みてしまう様なキャンバスに油性地を塗布して大丈夫なのか大いに疑問であります。
今回の実験結果に限って結論を出すならば、フナオカのウサギ膠引きキャンバス、A-Lineグルーキャンバスには水性地、或いはそれ自体に遮断性が期待されるアクリルエマルション地推奨。油性地を施すならば自前で更に目止め層を塗るべきで、油を多く含む地塗り材をテレピンなどでシャバシャバにして塗布する事は避け、硬いペースト状のものを使用すべき。…なのではないかと。

さらに不安を煽りますと、市販の地塗り済みキャンバスも目止めが脆弱だとするならば、油性地のキャンバスは既に油が生地に浸透していて劣化が激しいかも知れません。
もしそうなら将来自動的に「アクリルエマルション地の方が保存性が良かった!」などと結論づけられる事になりかねませんね。

一方で疑問に思うのは、以前紹介しましたJUST PAINTの記事によると膠はかなり強力に浸潤を止める効果がある様に記載されていた事です。
冒頭のテストで使用したキャンバス片は私が2層目、3層目の膠を施したものでも浸潤が起きています。これらも膠の遮断性能が弱いわけではなく、単純に塗り方の問題だったりするのか。
いくつかの資料によると、厚すぎる目止めは(膠の場合)亀裂の問題などを起こす為、塗布時には余分な膠をヘラでこそぎ落とす様に言われています。このこそぎ落とす行為がキャンバス表面凹凸の凸部分から必要以上の膠を除去してしまい、遮断層の形成を妨害しているのかも知れないなと。
塗り方によって差が出るのかは、今後検証してみます。

油の遮断のみに言及するなら単純に分厚い目止め層を施せば良いのですが、特に膠の場合、前述のとおり必要十分な厚みを持たせてしまうとロール状に巻く時に割れてしまったりして製品としては成り立たないのかも知れません。
これがその通りだとするならば柔軟なPVAによる目止めが施されたもの一択という事になってしまいます。
というかもう既に事実上そうなってますけども。

この話題は続きます。

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4件のコメント

  1. 油による基底材の劣化についてきっちり書かれたものって、私は見た覚えが無いので、これまた貴重な検証ですな。

  2. >古吉さん
    メーカーはこの手の資料持ってるのかも知れませんが我々の目に触れるものって古い文字ベースの文献以外に少ないですよね。
    劣化自体の検証は何年何十年もかかるので、今私が資料作っても結果が見えてくるのは次の代かも知れません。よくある耐性テストなんかでは紫外線当てる機械にぶっこんでおくんでしょうけど。

  3. 数十年以上の劣化に関連した資料は製造メーカーでも持っていない可能性がありそうです。作品が、常に一定した条件のところに置かれる訳では無いので、実験として成立しにくいのかも知れません。またキャンバスメーカーも創業100年を越えた企業も少なく、実験どころでは無いかも知れませんね。

  4. >Bambookさん
    やはり油によるキャンバスの劣化云々というのはナショナルギャラリーあたりが発信源なんでしょうかね。

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