使用画材について

当方が使用している画材について紹介します。リンシード練りの絵具や色の薄い加工油など、日本では入手性の良くないものなどもありますが参考までに。

─ 絵具 

単一顔料のもの。また最も堅牢な油であるリンシードオイルで練られているものを好んで使用します。
自分で混色すれば良いので基本的には単一顔料のものを優先的に選びますが、複数の顔料からなる絵具が悪いわけではありません。またカタログやラベルの表記では単一顔料でも製造ロットによる色味のバラツキを調整するために複数の顔料を添加してある場合も実は多いようです。
※コチラの記事も参照下さい。
機械で練られ、金属石鹸などの添加材を混入しチューブに詰められた現代の絵具製品は「誰でもが使いやすい」ものに仕上がっており、ごく一部を除きメーカー間の差異は若干の色味と練りの硬軟程度で、個人的感覚では「これでなければならない!」という製品は少なめ。
メーカーごとの傾向や特徴はリンクのページに記載しています。

Natural Pigments [ナチュラルピグメント]

  • Lead White #1 (PW1) リンシード練りの鉛白。粘りが強く食いつきがよい。近年高騰して流石に常用しづらくなってしまった。
  • Lazurite (PB29) ラピスラズリ顔料からなるくすみのある青色。ウルトラマリンではない。顔料が粗く使いづらいので万人にはオススメしかねる製品だが陶器の青い模様を再現する際にこれ単体で描いてしっくりいく。

Williamsburg [ウィリアムスバーグ]

  • Flake White (PW1) リンシード練りの鉛白。乾燥速度はMedium (2-7日)とある。
  • German Earth (PR102) 赤みの黒。若干粗いが明色へのグラッシで古ぼけた感じがよく出てくれる。粒子は粗目。
  • Cadmum Red Purple (PR108) カドミウムレッドより青みがかった暗めの赤。くすんで見えるがベルベットや果実など、赤い部分にそのまま使える。

Michael Harding [マイケルハーディング]

  • Cremnitz White No. 1 (PW1) リンシード練りの鉛白。Natural Pigmentsの鉛白高騰につき、こちらが常用になりそう。 乾燥速度が異様に遅く常用使用は断念。オフィシャルサイトにもDrying Slowとある。
  • Raw Umber (PBr 6) 他社製より赤みが強いローアンバー。

Old Holland [オールドホランド]

  • Cremnitz white (PW1) コールドプレスドリンシード練りの鉛白。
  • Cadmium Red Midium (PR108) 不透明で強烈な赤。

Lefranc&Bourgeois [ルフランアンドブルジョワ]

  • Red Ochre (PR102) オーカーを焼いてできる赤茶。顔料径が大きく油の分離が激しいものの、粘土質で独特な感触。
    ※2019年現在 廃盤となったようです
    ※2022年現在 新ラインナップで復活していますがPR101となり別物だとの事です
  • Yellow Ochre (PY42) 普通のイエローオーカー。
    ※2022年現在、新ラインナップでは色味が変わったそうです
  • Phthalo Armor Green (PG36) 気に入っているわけではないが鮮やかな緑。透明色。
  • Deep Madder Hue (PR177, PV23) 濃い赤のグラッシに使用。透明色。
  • Prussian Blue (PB27) 非常に強い青。使用場面はごくまれ。
  • Mars Black (PBk11) どちらかというと青みの黒。乾燥も速く堅牢性には定評があるようなのでアイボリーやランプといったクセのある黒よりも安心して使えるが、多少ツヤが引けやすい気がする。W&Nよりも粘り気のある練り。カラーインデックスによるとPBk11は「合成または天然の磁性黒色酸化鉄。天然の形では微量のシリカおよびアルミナを含む」とある。

Winsor&Newton [ウィンザーアンドニュートン]

  • Raw Umber 他社と比較してかなり暗くバーントアンバーに近い。
  • Yellow Ochre 他社と比較して赤みが強くシェンナーに近い黄土。明るい黄にしたい場合は他社製を選ぶ事。

松田油絵具株式会社

スーパー油絵具

  • Vermilion 他社と比較し黄味の強いバーミリオン。不透明色。ラベルに「黒田製朱製顔料」とある。
  • Sap Green 他社とは色味が違い鮮やか。葉っぱなどにそのまま使え、色味としては良い。透明色。本物のサップグリーンではない。「イギリスHAWLEY社製顔料」
  • Terre Verte 黒っぽい緑色。こちらもフタロシアニンで本物の緑土ではない。かなり透明だがヴァルトグラスを描くのに良い。「イギリスHAWLEY社製顔料」
  • Raw Umber 他社と比較してかなり青っぽい。冷たいアンバーが欲しい時に。「フランスLABORAL社製顔料」
  • Yellow Ochre 明るく黄色味が強い。「イギリスBLYTHE社製顔料」

 メディウム 

《中間》《媒材》などを意味する言葉ですが、油彩では乾性油、樹脂、揮発性油などを調合した画溶液の事を指します。光沢や乾燥速度、堅牢性、操作性などを調整するため絵具にまぜて描きます。単に絵具を薄める目的で使用するものではありません。
ところでこのメディウムは絵具にどの程度混ぜれば良いのか。これは以前より大いなる疑問でしたが、最適な量というものは描き方、メディウムの組成によって異なるのでなかなか指針となるものを提示出来ないのは心苦しいところです。正確に分量を計測して添加するなどという事は現実的に無理なので、感覚というしかありません。
Mediciで公開している制作動画を注意深くご覧頂ければ、幾分感覚がわかるかと思います。

調合油

フレミッシュグレーズメディウム
(旧)フレミッシュシッカチーフメディウム [ルフラン&ブルジョワ]

成分:リンシードオイル、コーパル樹脂、乾燥促進剤、ターペンタイン
コーパル樹脂と乾燥剤の働きで非常に早く乾き堅牢な塗膜をつくる調合メディウム。これ自体がすでに調合されたメディウムですが、自製メディウムの一成分としてよく用いられます。

乾性油

リンシードオイル [ルフラン&ブルジョワ]

亜麻の種子から採れる乾性油。乾性油の中では最も乾燥が早く、乾燥後の塗膜も堅牢。古来は圧搾により抽出されていたが、現在市販されるもののほとんどは抽出効率を上げるため加熱・粉砕した種に溶剤を投入して搾り取られたのち、薬剤を使った濾過により脱色されるらしい。この点で古来のものとは製法が異なり、保存性にどう影響するかは未検証ではないかと思えます。
特に国内メーカーの製品は大手製油会社から卸されたものを使用しているらしく、つまりどのメーカーのものを使っても同じということになるでしょう。
私がルフラン製を使うのは、同社製のメディウムや揮発性油を多く使うので気分的にも相性が良いだろうというだけの事です。

サンシックンドリンシードオイル [Williamsburg]

※すでに販売中止 2017年9月現在
リンシードオイルを日光に晒し酸化重合を促進させた加工油。糸を引く程度に粘度が高く、塗布後の乾燥がより早くなる。日本製のサンシックンドオイルは濃い色をしているものが多いが、海外は淡白なものも多い。

スタンドオイル [Williamsburg]

リンシードオイルを空気を遮断した状態で加熱し重合を進めた加工油。糸を引く程度に粘度が高く、塗布後の乾燥は遅くなる。塗布面は強烈な光沢を得るが、やたらと使うと上層が乗りにくくなるので単体で使うよりもメディウムに添加するのがよいでしょう。
Williamsburg製は比較した中でも粘度が高く透明。

揮発性油

ターペンタイン [ルフラン&ブルジョワ]

松脂を蒸留して得られる揮発性の溶剤。油を溶かす性質があり絵具やメディウムを薄める事ができますが、使い過ぎると絵具の固着力が落ちるので注意。一時期これのみで描く指導をする者がいたそうだがもってのほか。
ルフラン製のものは他社と全く異なる良い匂いがするのでお気に入り。
製作途中に筆の絵具を落とす際にもこちらを使いますが、若干の樹脂分が含まれるのでそのまま乾かすと翌日には硬くなってしまいます。後片付けにはペトロールや筆洗油を使いましょう。
日本の画材メーカーは軒並み「テレピン」と呼んでいますが、ホルベインは頑なに「テレビン」と呼んでいます。

スパイクラベンダーオイル [ルフラン&ブルジョワ]

ある種のラベンダーから採れる揮発性油。アスピック、スパイクオイルとも呼ばれ油彩画で通常使われる揮発性油の中では最も溶解力が強く、揮発の速度が遅いのが特徴。
刺激の強い香りを持ちますが香料としてのラベンダーオイルとは別物。
界面活性作用があるとされ、絵具を重ねる際に上層がはじかれる場合にこれを塗布すると“ハジキ”が収まると言いますが、界面活性作用によるものなのか、単に油が溶かされているだけなのか正直わかりません。また強いハジキに対しては効果が無い場合もあり、不用意に多用するとその溶解力によって描画層を溶かしたり塗膜を浮き上がらせる恐れもあるので注意が必要。
コーパルを使ったメディウムを調合する場合は、溶解力の高いアスピックを足してあげたほうが良いという理屈も考えられます。

ペトロール

ホワイトスピリット、ミネラルスピリットなどとも呼ばれる石油系の揮発性油。
植物系の揮発性油と異なり、揮発した後に樹脂分の残留が無くサラリとしています。天然樹脂に対する溶解力が劣るため、私はメディウム調合や描画時には使わずもっぱら筆を洗う用途でのみ使用。メーカーにもこだわりは無く、安価に入手できる笹部画材オリジナル製品を使っています。
無臭(オドレス)ペトロールなども流通していますが、溶解力がさらに弱く、無臭である事から扱いに気を使わなくなり逆に危険であるという意見もあります。

樹脂

メディウムへの樹脂の添加は光沢や乾燥速度、堅牢性などの機能を付与します。
フレミッシュシッカチーフメディウムには既にコーパルが含まれているので、特に他を必要とはしません。

バルサム(ベネチアテレピン) [Talens]

※コチラの記事も参照下さい
いわゆる松脂。強い光沢と可塑性を絵具に与えるといわれるが現代のチューブ絵具は金属石鹸の添加による強力な可塑性を持つのでバルサムが絵具に与えるのは可塑性よりもむしろ粘性と思います。
環境条件にもよるのでしょうが、普通は乾燥が遅く画面がべとつきやすくなるので好みが分かれます。

ストラスブルグターペンタイン [俵屋工房(Kremer)][日本リノキシン]

しばしば“まぼろしの”樹脂として語られるこの樹脂(樹液)は同じマツ科であってもモミ属から採れるものらしく、一般的な“バルサム”或いは“ベネチアテレピン”とは性質が異なる。
国内では俵屋工房と日本リノキシンから入手できますが希少種。非常に乾燥が早く、そしてなによりすばらしく良い香り。単体では冬場に結晶化する傾向がありますが、メディウムに添加する分量では結晶化は確認できません。なかなか塗面が乾かなくなる寒い時期に向くはず。今後はこちらに移行してゆこうと思っています。
カナダバルサムもモミから採れるらしいので、同じものかどうかはまだ比較できてません。