今回も有用な方にとっては恐ろしく貴重な情報が含まれた(?)長文になります。
興味の無い方は見なかった事にしてすっとばして下さい。
近年では木枠にキャンバスを張るのにタックス(釘)ではなくステープル(ホチキスの仲間)を利用する方も多い様です。
私はキャンバス固定用具としてのステープルに対していまいち信用が持てず今まで敬遠していましたが、先日紹介した「角から張り」の記事にあった様に、狭い間隔でバシバシ打てば、あるいはタックスよりも均一なテンションで、かつ強力に固定する事ができるやも知れぬ…と、しばらくの間ステープルについて調べておりました。
ステープルには色々な形状がありますが、まあ基本的にホッチキスの針みたいなもんです。
それを打ち込む道具を「タッカー」「ガンタッカ」や「ステープラー」「ステープルガン」と呼びます。
業務用にはエアーコンプレッサーを使った強力なエアタッカーなどありますが、キャンバス張りに使用するのは握力とバネの反動でもって打ち込む「ハンドタッカー」になるでしょう。
▼手持ちのハンドタッカー3種
上段の青いのはホームセンターで手に入る安物ホビータッカー。1,000円ほど。
左もホームセンターで手に入るちょっと頑丈なもの。商品名「パワータッカー」。2,000円以下。
右はスウェーデンのRapid R34。このモデルは日本では手に入りにくく、あってもかなり高価。
▼ステープル3種
左よりホビータッカー用、Rapid用140シリーズ、MAX 1008J-S(パワータッカーで使用可)
足の長さはそれぞれ6mm~12mm程度までバリエーションがありますが、画像は私が持っているものについてご紹介したまででバラつきがあります。
▲ホビータッカーのステープル。線の太さは0.5×0.7mm。 肩幅12mm 足長8mm
一般的なハンドタッカーはこの針で、ステープル張りを実践されている方々も恐らくこれで留めているのではないかと思いますが、ちょっと心許なすぎです。
▲ラピッド製No 140/4/11。線幅0.5×1.25mm 肩幅10.6mm 足長10mm
ラピッド製のタッカーにはRT線と呼ばれる0.5×0.75の線材を使った針が使われますが、これはそれよりも大型の針。バリエーションにはステンレス製の針もある様です。
ガンタッカー本体と共に、日本の小売店では入手しにくい品になります。
しかし小型のものはステープル界では地位が確立しており、「ラピッド用ステープル」と言えば肩幅10.6mmのRT線ステープルが買えるようです。
画像のステープルが使えるモデルはこちら。
▲線幅0.6×1.2mm 肩幅10mm 足長8mmのステープル。
このJ線と呼ばれる線幅のステープルは業務用では最も普及しているのでは無いでしょうか。
私が購入したのはMAX製のJ線ステープル「1008J-S」で、ステンレス製。
主にハンマータッカーやエアタッカーで使用されますが、MAXなど有名メーカーではなぜかこれが使えるハンドタッカーは製造されておらず、ホームセンターでみかける安物ハンドタッカーで使用可能なものがあり穴場的存在となります。(「パワータッカー」なるものがこれにあたる)
ちなみにカタログ値ではRapid用ステープルの方が肩幅が広いですが、これは測定位置が異なる為で実際はJ線の方が広い肩幅になります。
J線用タッカーでRapid用ステープルが使える事はありますが、逆にRapidのタッカーにJ線はギリギリ入りません。
再度、線種の異なるステープルを見てみましょう。
▼奥からホビー用、Rapid140シリーズ、MAX 1008J-Sの順
誰が見ても一番奥は貧弱に見えるでしょう。
キャンバスの張力を保持するにはやはり、太めの針の方が適していると思われます。
また肩幅の広いものは打ち付けた時に変形してしまう率が高くなります。
ここはやはり、線が太く肩幅が少し狭いRapid140シリーズか、J線を使いたいところです。
また湿度の高い季節をもつ日本では、鉄製のものよりもステンレスを使いたいものです。
粗悪品でない限り、ステープル表面には防錆の加工が施してある様ですが、ステンレス製のものを使うに越した事は無いでしょう。
Rapidのステープルにもステンレスのものがある様です。
しかしながら前述の通り、日本の小売店でそれらを手に入れるのは至難の業かと思われます。
日本製のタッカーで有名処と言えばMAXの製品で、その中でも「TG-A」が最も大型でよく薦められていたりします。
しかしながらTG-Aで使えるステープルは、画像中一番細いステープルのみで、J線ステープルが使えません。
現実的で最適な組み合わせとしては、ホームセンターに置いてある激安商品「パワータッカー」で、MAX製 「1008J-S」、またはすこし足の長い「1010J-S」あたりを使うのが良いでしょう。
近所のホームセンターにない場合はいずれもネットで購入できます。
・パワータッカー
・1008J-S
・1010J-S
※2016.5.5 monotaroから本体が消えてましたので商品リンク先をDIY TOOL.comに差し替えました
「パワータッカー」は
およそ1,500円の安物ですが、J線もRapid140シリーズも、更にいうならネイル(針みたいなステープル)もU字型のステープルも使えるという、万能型。
本体を両手で押さえてしっかり押さえて打ち込めば、J線も根本までキッチリ打ち込む事ができます。
握力は要しますが、男性ならばまあ使えない事は無いでしょう。
握力に自信のない方、女性の方にも以下の情報をお伝えしておきます。
電動タッカーなるものがありまして、これだと握力は必要ありません。
▲BOSCH バッテリタッカー PTK 3.6V
定価1万ほどする品ですが、運が良ければヤフオクにて新品が4,000円くらいで手に入ります。
これに使われているステープルは専用の細いものなのですが、実はJ線を入れてみたら使える事が判明しました。
多少無理してるかも知れませんが、打てます。
足長は8mmでなければならない様ですので、1008J-Sを使いましょう。
説明書によると足長14mmまでのステープルが使えるようです。
難点は重い事です。
また電動だから片手でらくらく~! と思いきや、片手では反動で本体が浮き上がり、狙った位置とズレてしまう上にステープルが根本まで打ち込めません。
両手でシッカリ押さえてから打てば良いのですが、誤動作防止の為に付けられた先端のスイッチのおかげで対象物と接する面積が異様に狭く、押さえつけにくいのでありました。
慣れれば問題ありませんが。
さて今回は苦心の末にここまでまとめあげましたが、果たして今まで美術誌などでキャンバス張りに使用するステープルについて述べられた事はあったのでしょうか。
なんとなしに細いステープルを使用されてる方がおられたら、これを機に、一緒にステンレスのJ線に移行して幸せになりましょう。
…と言っても私はまだ買い置きもある事だし、タックスも使いますけど。
こちらも使ってみられたりしたご感想などお待ちしております。
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技法書などでは書かれていない、実際にキャンバスをはってみて、ハテ??と疑問に思いながらもやりすごしてしまいがちな事を細かくまとめてくださって、読み応えのあるブログですね。
学校でも教えてもらえない事が沢山書いてあって、すごい方だなぁ、と。
絵は白日で拝見しています。ラピスラズリの絵の前では知らない人が、これは本物のラピスラズリを使ったあの作品だ・・と会話されているのを聞きました。
あとからこちらのブログを知りました。
面白いし、いろんな画材や道具が紹介されていて読み応えがあるので、また訪問させていただきます。
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コメントありがとうございます。
興味もたれる方もいるだろうと思って色々書いてはいますが、本当は色々意見やらデータを持ち寄ってもらってそこからまた発展するといいんですけど、多くはひとり発表会になってしまっているのが惜しいところです。
白日も拝見頂いたとの事。
ラピスラズリについて言及されてた方々はブログ読まれた方でしょうね。
ここの読者は希少なはずですが…
アンテナにひっかかる記事があったらまたコメント下さいませ<(_ _)>
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ちょうどタックスからステイプルに移行を考えていたので、とても参考になりました。ありがとうございました。今回初めてでしたので、また別の記事もゆっくりと拝見して参考にさせていただきます。画面以外の屋台骨を支えてくれる技術については中々参考に出来る記事など少ないですから貴重なブログだと讃えさせてください。
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>TNさん
コメントありがとうございます。
記事を書いてから随分たちますが、お役に立ててなによりです。
ステンレスステープルはMax製よりも安価なものが手に入りますので、最近はそちらを主に使っています。ご参考まで → bit.ly/Xxe9V8
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ステープルを抜く時ってどうしてますか?
なかなか良いリムーバーが見つからなくて困ってます^^;
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>あっとさん
キャンバスへの使用を前提にお話させて頂きますが、実は私も毎回難儀してます。
マイナスドライバーでグリグリやるのですが、地塗りのカスをポロポロばらまく事になりますしスベって手を怪我した事もあります。
冒頭の画像はゴールデンの記事にあったものですが、ステープルを打つ時にリボン状にした亜麻布をかましておけば、取り外す時にそのリボンを引っ張ればステープルを抜きやすいとの事でナルホドです。
私は木枠側面に打ち込むので難しいだろうと尻込みしていますが、一度実践してみたいとは思っています。
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いつもためになるブログありがとうございます
以前1度、キャンバス張りを初めてやってみる、と
書き込んだ者です
予想通り、張って雨の日にはシワ、またタックス抜いて
張っては失敗を重ねましたw
ステーブルではありませんが、一番抜きやすかったのは
硬め(特殊鋼?)材質のペンチです
そのペンチの合わさる部分を、拡大鏡下でピッタリ合わさるように
細番手のヤスリで加工し直し、さながら”特大トゲ抜き”
のようにしてタックスの頭を挟むのです。
それでも滑るのですが、ドライバーや釘抜きより自分にとっては
抜きやすかったです
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>初心者さん
どうもコメントありがとうございます。
その発想でいきますと「喰い切り」が使えるかも知れませんね。それこそペンチの先端が尖ったような道具です。
しかし頭がめり込むまで打ち付けたタックスには、どのみち釘抜きやらマイナスドライバー状のものが必要な気がしますがどうでしょう?
キャンバス張りについて豆知識ですが、現在普通に売ってるキャンバスは熱でかなり伸びるので、ストーブや電熱器で暖めながら作業すればパンパンに張れると思います。一度お試しを。
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古い記事へのコメントになってしまい、すみません。
BOSCHの同型機を持っており、J線が使用できるとの情報に非常に感謝しております。
>足長は8mmでなければならない様ですので、1008J-Sを使いましょう。
という記載がありますが、足長8mmなのは何故なのでしょうか。
細い線なら14mmまで入ったと思いますので、ちょっと気になりました。
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>sinさん
本当ですね。なぜ8mmと断定したのか記憶にありませんが説明書を見ると足長14mmまで対応している様子、当時8mm以上のステープルで試したかどうかも忘れたのですが修正しておきます。
ご指摘ありがとうございました。
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とても参考になる記事でした。
ありがとうございました。
私はホームセンターで購入したMaxガンタッカーを使用していましたが、パネルの木の堅さに負けてしまい、針が曲がってうまく入らず苦戦しておりました。
女性ですので、紹介されていた「BOSCH バッテリタッカー PTK 3.6V」を検討しておりますが、検索したところ「バッテリータッカーPTK 3.6LI」しか見つけられませんでした。
紹介されていた商品とは商品名や製品の形状が若干異なりますが、同じ内容のものでしょうか?
ご存じでしたらご教授ください。
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>Nonさん
コメントありがとうございます。
PTK3.6LIは後継機種の様ですね。
仕様書を見ますと使えるステープルの肩幅は前機種と変わりませんが、対応足長から14mmが無くなり最長10mmとなっています。
どっちみちJ線のステープルが使えるかどうかは試してみないと分かりませんね。
確実なのはマキタの本格的な充電式タッカですが、重いし価格も実売3万円台とちょっとお高くなります。
http://www.makita.co.jp/product/li_ion/st420drf/st420drf.html
お役に立てず恐縮ですがお試しになられた際は是非ご報告下さい。
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早速お返事頂きありがとうございます。
J線が使用できるかどうかは分からないとのこと、参考になりました!ありがとうございます。
充電式は根元まで打ち込めないとのこともちょっと困りますので、記事に書かれている「パワータッカー+1010J-S」で試してみることします。
使用感をおしえていただきたいのですが、堅めの木材でも根元まで入るのはどの組み合わせと思われますか?
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>Nonさん
パワータッカーは安価ですし試すのには良いと思います。
当方はこれにJ線・ステンレス・足長8mmの1080J-Sを使いキャンバスを張ってますが特に問題を感じません。
ちなみに日本で流通する一般的なキャンバス木枠は木材としては柔らかめなウェスタンレッドシダー材です。
「堅めの木材」がどの程度か判りかねますが、PTK3.6LIの使用動画を見ますとJ線より細いと思われる専用ステープルでも木材にきちんと打ち込めています。フローリング材では曲がってしまってますが。
ttps://youtu.be/ow-vHzL7LNU (頭に半角hを足して下さい)
ハンドタッカーにしろ電動タッカーにしろ根本まで打ち込むコツはステープルの打ち出し口を対象物にしっかり押し付ける事ですが、PTK3.6LIは3.6Vの様に誤動作防止スイッチも飛び出ておらず、本体形状も力が掛けやすい様に改良されていてかなり良さそうに見えます。
重さも1.2kgから800gへと軽くなってますね。
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ご丁寧に教えて頂きありがとうございました。
過去にマックス ガンタッカ TG-AとT3-13Sを組み合わせて使用しておりましたが、うまく根元まで入らなかったのでどうしたものかと思っておりました。
この組み合わせで大工仕事等のプロの方にも試してもらい、木材が堅いから入らないと言われました。
動画まで教えて頂きありがとうございました。
パワータッカーを購入して、それでもうまくいかなければ電動タッカーも検討します。
ご教授頂き感謝しております!
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>Nonさん
先のコメントの訂正です
1080J-S → 1008J-S
TG-Aは所詮「ホッチキス」ですよね。貧弱な反面、力はいりません。
記事中の商品(パワータッカーとステープル二種)へのリンク先が存在しなくなっていたので差し替えておきました。他にもタッカー本体はamazonなどでも購入可能ですが1010J-Sはあっても1008J-Sはなぜかありません。
ステープルネイルはステンレスだと8倍くらいの値段になってしまいます。必要なければ型番に「-S」の付かない通常の軟鋼線材ですと5000本が300円台と安価に済みます。
ご検討お祈りします(^^)/
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本日、「パワータッカー+1010J-S」が手元に届いたので早速試してみたところ、問題なく根元まで入れることが出来ました!!
ありがとうございます。
やはり以前は針の貧弱さに問題があったようです。
toriartさまの記事に出会うことがなかったら、この先ずっと原因がわからないまま、試行錯誤を繰り返していたと思います。
貴重な記事を本当にありがとうございました。
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>Nonさん
うまく行ったようで何よりです。
前述のとおり当方は1008J-Sを使っていたのですが足長10mmでも根本まで打ち込めるんですね。
パワータッカー自体は安物ですし余り長持ちはしないようで、私のもそろそろ買い替えどきです。
似たような製品がいくつかあるので、それらも試すことができたらまたブログ更新しようと思います。
ご報告ありがとうございました(^^)