やはりキャンバス木枠の縁にはなにがしかの配慮が必要かと

先日の記事の続編という形で。
張ってから2年ほど使わずにとっておいたキャンバスをはがしてみました。
フナオカ製のF No.1極細。かなり薄い生地です。
このキャンバスには張った後に赤茶系の色を塗ってあります。

上の画像はキャンバス裏面ですが、木枠に当たっていた部分にそって、表面に塗った赤い絵具が染み出してしまっております。

▼表面はこんなかんじ

木枠の方にも色がついています。
キャンバスを張る際に木枠の縁で急激に曲げられて強い力がかかり、地塗りと目止めに亀裂が入った証拠です。
この頃は木枠の縁を丸く削る事はしておりません。

キャンバスは亜麻繊維でできておりますが、これに直接乾性油が触れると酸化によって痛んでしまいます。
そのためキャンバスには油の浸潤を食い止める層を「目止め」として設け、その上に地塗り層が施されます。
古来、目止めには膠(にかわ※)が使われましたが、今では市販のキャンバスの多くがPVA(※2)です。
※ 動物の皮や骨からとれるゼラチン。接着性が強くあらゆる接着用途に使われた。日本画では顔料を画面に定着させる接着剤として使われる(油彩における接着剤は油)。膠を精製すると食用ゼラチンとなる。
※2 ポリビニルアルコール。合成樹脂の一種。膠と性質が似ていると言われ、扱いも容易である事から膠の代替として使われる。身近なところでは洗濯のりもPVA。
まあ縁の部分なのでまだいい。という考えもできますが、保存を考えるなら気にしたいところです。

対策としては市販キャンバスと木枠を使用するという前提で考えると

・木枠の縁を削りキャンバスへの負担を減らす(先日の記事参照)
・亀裂が入らない程度のテンションで張る
・目止めの膠も地塗り層の油も固化していない柔軟性のあるうちに張る=古いキャンバスは使わない
・簡単に亀裂の入らないキャンバスを選択する

くらいでしょうか。

4つ目についてはなかなか難しいですが、市販のキャンバスでも描き心地とかばかりではなく目止めの強靭さとか、経年による油の浸潤しにくさとかそういう評価項があってしかるべきだと思います。

描かれて数年後の絵でも裏側に(角ではなく)シミができているものを見かけますが、そういうのは目止めが不十分なのだと思います。
大手メーカーでしたら裏面にメーカーロゴなどが入っていますので、メモや写真をとっておきましょう。
PVAと膠で縁の割れやすさに違いがあるのかテストしてみたいところですね。

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“やはりキャンバス木枠の縁にはなにがしかの配慮が必要かと” への5件のフィードバック

  1. いつも為になる情報ありがとうございます
    先日初めてキャンバス貼りに挑戦しました(10号、8号)
    本やネットを参考にしたのですが、”聞く”と”する”では
    大違いで、いちいち分からないことだらけでした。
    一番分からないのが、引っ張り加減。
    最初の4点を留めたときのひし形を参考に
    したのですが、ひし形がはっきり表れるほど
    引っ張ると、木枠の縁部分にひび割れが・・・
    4枚目を貼る時に、なんとなく感覚が掴めたような?
    引き続き挑戦します^^

  2. >初心者さん
    ご覧頂きありがとうございます。
    キャンバス張りという絵を描きはじめすらしない前段階の事でも、実は(私を筆頭に)よくわかっていない人が多いと思います。
    たしかに張り加減というのは難しいですね。
    中央と角では伸びしろの違いがあるため、同じ力で引っ張っていては布の伸び具合が違ってきます。
    中央から張る場合、最初は7割くらいの力で張っておいて、角に向かうに従って張る力を強めていくのがコツです。
    キャンバスに目印となる線を引いておいて、その線がまっすぐになる様に張る事を目指すとよいでしょう。
    角から張りにも挑戦してみてください。記事に書いてる通り、問題点はありますが。
    http://torilogy.net/531

  3. はじめまして。私は油彩画を描く者です。
    先生のブログはいつも大変勉強になり、ありがたく読ませていただいています。
    ちょっとした思いつきなのですが、「最初から木枠の縁から5mmくらいまでは何も描かない。」という手はいかが思われますか?
    それだと当然、絵の具や画溶液の染み込む心配がなくなりますし、どうせ額縁のマットで5mmほどは隠れてしまうので、最初からマスキングテープなどでカバーして描かないようにする手もありなのかなと、ふと思ったのですが、、、

    • >前田さま
      コメントありがとうございます。
      「木枠の縁から5mmほどには描かない」は有効だと思います。自分で地塗りをする場合には、地塗りの段階からその範囲を拭い取ります。これは飯田達夫さんに教わった処置です。

      マスキングテープの使用は意見が別れるでしょう。
      マスキングの上に絵具が乗る様に描き、後から剥がすのは問題です。毎日貼り替えるのであればまだ良いのですが、乾いた層を下から剥がす事になり余計な部分まで巻き添えに剥がす可能性があります。
      一方乾いてない状態でマスキングを剥がすと塗面のフチが毛羽立ったり盛り上がったりと、やってみれば判りますが色々と不具合が多く逆に難しいです。

      そもそもマスキングはおろか弱粘着の付箋紙さえ文化財等に対しては糊剤が残ってよろしくないという意見を散見します。私はそこまでシビアに見ずホコリ取りなどにマスキングを使用していますが「糊残りが少ない」と謳っている製品を使っています。これについては後日ブログでまとめます。

      • 本当に詳しくご回答いただき、ありがたい限りです。
        「末長く劣化しない作品を提供する」という先生のポリシーを感じ、感服いたしました。
        今後とも先生のさらなるご活躍を陰ながら祈っております。

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