ここのところ美術の窓に寄稿した記事の補完情報をブログにまとめています。
美術の窓への寄稿についてのお話はこちら。
寄稿記事の内容については美術の窓2022年8月号を参照下さい。
デカチッサージュについての考察
デカチッサージュについては詳しく書かれた資料がないので、美術の窓誌に寄稿した記事の内容では正直誤解を与えたかも知れないと反省しています。
ぜひ詳しい方からのツッコミを頂きたいところです。
そもそもデカチッサージュという、デカいんだか小さいんだかよく分からない言葉の意味は何なのでしょう。
フランス語でDécatissageと書きますが、絵画用語としてのデカチッサージュを調べると、一連の工程により2つの目的を遂げる、とするものが散見されます。
一つはお湯で濡らして汚れや不要な付着物、或いはコーティングを洗い落とすというもの。
現代では布を織る過程で亜麻糸に合成糊剤を塗布するという話ですから、そういったものを洗うのでしょうが、過去においても糊剤を除去する必要があったのか、または単に汚れを落とすとか、余分な水溶性の成分を落とすのが良しとされたのでしょうか。
少量のアンモニアを添加したお湯を使うとも言われ、生地の洗浄に加え防腐効果を与えるものかも知れません。
デカチッサージュのもう一つの目的は、吸放水による伸縮を利用し、生地をできるだけ伸び切った状態にして安定化させるというもの。
亜麻繊維は吸水により伸びるのですが、繊維方向への伸びよりも経が太くなる率の方が高いそうです。
繊維の膨潤 は直径方向に生じ,長さ方向にはほとんど生じない.
[参考]水と繊維 (P.5 「3.膨潤」)
伸びるけどもそれ以上に太くなる。
繊維が太くなると織物では糸が交差するのに必要な長さが増えます(交差する相手の糸の径が大きくなるため遠回りになる)。その為木枠に張られた布は長さが足りなくなり、張り詰めた状態になる…というのが私の認識です。
繊維が撚り合わせられて成る糸自身にも、この現象が起きて縮んでいるかも知れません。
間違っていたら指摘してください。
乾いた後の生地が濡らす前よりも緩むのは、繊維が太り縮む力によって織り目が詰む事と、繊維が伸ばされる事によるものと思われます。
乾くと繊維は痩せるので、余分な空間が生まれ、たるみます。
このたるんだ生地に力を加えて(踏みつけたり叩いたり)伸ばすことで、最大10%ほどまで生地が伸びるという事です。
一方で記事に載せた私のやり方は、濡れている間に生地を伸ばすという手法でした。
一旦濡らして乾いた後のたるんだ生地に力を加えるのと、濡れてパンパンに張り詰めた生地に力を加えて伸ばそうとするのとでは、必要な体力にも違いがあって正直張り詰めた硬い生地を伸ばそうとするのは力がいります。
果たしてどちらが効果的なのか、実は経験不足で全くわかりません。何度か試して伸び具合を計測するなり、作業にかかる時間や手間などを比較する必要があるでしょう。
デカチッサージュ用木枠のアイデア
デカチッサージュという作業に耐えるには普通のキャンバス木枠では心許なく、もっと頑丈な木枠が必要になります。これは売ってないので自作するしかありません。
上記画像の木枠は900×750mmの寸法ですが、断面が35×40mmの杉材を四角く組んでビス止めし、四隅の裏側から三角形の合板で補強しています。(四隅の補強板はキャンバスを張る際に邪魔になるので、薄い金属かL字金具などを使ったほうが良いと思います)
表側の外周には断面が扇形のモール(廻り縁)を取り付け、キャンバスを木枠から浮かせる構造にしています。
そしてキモとなるのがこちらの合釘。
両方が尖った釘「合釘(あいくぎ)」というものが存在するのですが、ダンドリビス製の上記製品は間にツバが付いており、付属の円柱工具を使う事で金槌で打ち込むことが出来る優れもの。
なのですが、画像を見ても分かる通りなぜか微妙に軸がズレていたり、先端が丸っこくなっていたりしてイマイチ残念な品となってしまっています。
両方尖った(尖ってないんですが)クギを等間隔に木枠側面に打ち込みます。
キャンバスを張る際にはタックスを打ち込むのではなく、クギに引っ掛けていきます。
この案はmarin BEAUX ARTSが公開している動画からの模倣なんですが、もっと尖った合釘がほしいところです。
私のやつだと合釘の先端が丸いので動画のようにスッと入ってくれず、指でいちいち押さえてクギの先端をめり込ませる必要があります。
脱線しますが上記のショップというか工房というかは、おそらく一般人がおいそれと手を出せるものではありませんが掲載されている品々は興味を引くものばかりです。
下の図はキャンバス張り器と、地塗り用のナイフ。
張り器はフランスの伝統的な形状で、輪っかになっている金具を持ち手の側へずらす事で噛み口が開かないように固定させる仕組みのものです。
下図は格子状クレードル付きの支持体。本物のパネルですね。
キャンバスの種類なんか圧巻です。
まあ常時在庫品では無いかも知れませんが。
最後に、作業の動画を撮りましたので御覧ください。