当該号の特集「絵画のトラブル(破損・劣化) 保存版 原因・対策・修復を知る」に寄稿しております。
とかく絵画は精神面や逸話・裏話、あと値段のたぐいばかりが取り沙汰されがちですが、完全に物理的側面から対象を捉える「保存修復」に関する特集が美術誌で組まれる事は珍しいのではないでしょうか。
多くのカラー図版を交え日本語で書かれた修復に関する書籍というのは見かけませんので、なかなか貴重な資料になると思います。
修復の技術や考え方、実例などが披露される一方で、「できるだけ壊れない作品を作る」という視点を同じ誌上で展開できている点は素晴らしい構成だと言えます。
その中で私も「できるだけ修復のお世話にならないように描くべし」「そのためにはまず“普通に”描け」という主張を掲げ、油彩画の支持体の準備や描く上で気をつけるべき点などについて記事を書いています。
記事内容を補完する情報をブログに書くつもりでしたが、すごく長くなったので後日小分けして記事化していくつもりです。
「古典絵画を科学する どうすれば「長保ち」する絵画をつくれるか」26-31ページ
「古典絵画」という括りには普段から否定的であり、「科学する」という語についても適しているか知りませんが、こちらは用意されたタイトルにつき悪しからず。
かなりかいつまんで支持体の特性などに触れたあと、「普通の描き方」について述べ、そして古典的なキャンバスの準備について材料と工程を紹介する内容となっています。
ところどころで、市販のキャンバスと市販の油絵具使ってりゃ「伝統芸術」になるわけではないという事をチクチクと突いているつもりです。かと言って何が伝統なのかはよくわからないのですが。
オマケではありませんがオンラインショップに置いてるやたらと高級な画溶液の処方も掲載してます。ご自分で試してみたい方は参考にしてください。
前後しますがもうひとつ別のコーナーにも寄稿してます。
「お悩み解決5選」18-19ページ
アクリル板と作品の癒着、額縁と作品の癒着について、そして国内外の額装について構造の違いを述べています。
額縁との癒着については当ブログで以前掲載した、スペーサーをかませて作品表面と額縁の接触を避ける対策の紹介です。
記事中で海外の額装例としてあげた裏面に布が張ってあるものは、疋田正章氏が現地で撮影したヨーロッパのナントカ美術館に収蔵されたとある作品の裏側の画像なのですが、資料提供のキャプション付けてもらうのを失念してしまい申し訳ないです。(掲載の許可はもらってます)
さて、以下はどうでもいい与太話。
「どうすれば長持ちする絵画を作れるか」については、支持体の選択から仕上げまで…とテーマを欲張った為に原稿が膨らんでしまい、実は内容を削るのが一苦労でした。
支持体にしても地塗りにしても各々の性質・特性を把握した上で選択し、それぞれに適した処置を施すのが肝要です。本来ならばそのための情報を読者に提供できればよかったのですが、その情報量たるや膨大であり、本が一冊できあがりそうな勢いなので諦めました。
仕方がないので実践編としては一般に馴染みのあるキャンバスを取り上げ、生地の状態から絵を描ける状態へもっていくまでの準備工程を、わざわざ古典的な手法でやってみるという形で紹介する内容にしました。
記事の準備で大変なのは文章ではなく画像資料の用意です。
普段の制作ではやらない工程を紹介する事にしてしまった為に、手間のかかる面倒な作業を準備段階から整え、都度都度自前で撮影する必要がありました。
かつてはそんな事とてもできませんでしたので、ある意味、時代です。
最も手間がかかるのはデカチッサージュと言うキャンバス生地を伸ばす作業。それから地塗りを施すまでの工程…なのですが、作業に耐えうる頑丈な木枠の制作からはじまり、キャンバスを張り、お湯で濡らし、体重をかけて生地を伸ばす、この作業を3回…つまり乾燥を待つので3日かけ、次に目止めとなる兎膠の塗布を2回 3回でした。これも日をまたぐ作業。そして鉛白とローアンバー、大理石粉による地塗り。とまあ最短でも1周間は消費するような作業と撮影を締め切り迫る短い時間でこなさなければならずにくたびれました。
最後の工程は実は絵具が足りなくなって実は一層しか塗布していませんが、記事には「二層塗布する」と書いています。
結局デカチッサージュについても地塗りについても、独自の判断による手法が混ざってしまいそれが誤りであるという指摘があっても仕方がない内容になったのですが、デカチッサージュ用に作成した「合釘」を使った木枠はわりと良い発明ではないかと思います。
これについては記事で詳しく触れらていないので後ほどブログでも紹介したいと思っています。
あとは仕上げのニスについて。
これはもう10年くらい前から製品による違いのレビューをやるやると言ってて、ようやく雑誌の記事で初出しする事となりました。
しかしなかなか反射の具合を画像で見せるのは難しく、画像が小さい事もあってよくわからない比較になってしまったのですが、まあなんとなく違いが出るという事が伝わればと思います。
これに関しても追加のテストをやる予定もあるので、また改めてブログでまとめようと思います。
先述の記事に加え、15ページには暗所黄変と日光漂白の例として画像提供をしてます。
これは鈍感な人は違いがわからないのではないかという画になっちゃいました。
リンシードの暗所黄変については当ブログでもコチラやコチラなどで過去にも書いていますが、リンシードオイル練りの絵具を「そのまま」使う事はほとんど無く、普通の制作であれば絵具にメディウムを添加して描くのでテストサンプルのような極端な黄変は短時間では起きません。
なおかつ未だに美術館やギャラリーの照明には色温度の低い、つまり赤っぽい照明が使われるので、多少の黄変には気づけません。
また一口にリンシード練りの鉛白と言っても、メーカーによって黄変の具合にはかなりの差異が出ますし、チューブの使い始めか使い終わりかによっても絵具に含まれる油の量が違ってくるので黄変度合いにも差が生じるはずです。
ところで今回、雑誌からの執筆依頼が直接私に回ってくる事は考えにくいと思ったのですが、古吉弘画伯、アトリエ・ラポルトからの推薦(?)によるものであったようです。青木敏郎画伯にも執筆の打診が行ったようですが、私が記事を書いている事はご存知のようだったので先生からも「あいつにやらせとけ」と紹介頂いたのかも知れません。
なんだかんだ多方面から懇意に頂いてる事をありがたく思います。