銅板支持体の下処理&地塗り ~実践編~

複数の資料で見る銅板支持体への下処理・地塗りの処方は、亜鉛やしろめ、銀などでコーティングした特殊なものから、ニンニク汁を塗って鉛白で地塗りする…或いは乾性油やニスの類で下処理をするという比較的難易度が低いものまで様々です。

しかしながら概ね 《キズ入れ》 → 《ニンニク汁塗布》 → 《地塗りorニス》 というのが現代作家と研究者の間では一般的に受け入れられている処方ではないかと思われます。

今回は当方が今までに実践した具体的な処方をご紹介しながらレポートして参ります。

ちなみに「ニンニク汁を塗る」に関しては、一度試した際にうまくいかず、以降試していませんが検証が必要だと思っています。

はじめに

銅板の選出

まずは下処理や地塗りの前に銅板を購入するところからはじめなければなりません。
現在流通している銅板は無酸素銅、タフピッチ銅、りん脱酸銅の三種があり若干価格も異なります。これらの違いは溶接などの際には気をつけなければならない様ですが、油彩画の支持体として使用する場合には全く区別つきません。

厚みは20cm角くらいまでの大きさなら1mmあれば十分です。
画面が大きく、例えば一辺が30cmくらいになると角や全体のヤスリがけをしている間に微妙に湾曲する事があるので、1.5mm、2mm、と、もうちょっと厚みをもたせた方がよいかなと思います。その場合はもちろん面積あたりの銅の価格も高くなり、重さも増すことになります。

銅板をMDFと接着させて使う海外作家もいますが[参考]、裏面にそのようなサポートを施せばある程度大きな画面でも薄い銅板で強度を確保できるでしょう。
ただ複合素材は難しく、例えば接着剤を塗布して銅板を貼り付けた面と背面では吸放湿の度合いが異なり、経年と共にサポート材自体が反ってしまい銅板を道連れに変形してしまう可能性が考えられます。そうなるとせっかく金属支持体が持つ形状安定性の高さが活かせません。
一方で、たわみや変形が生じた際にも修正しやすくする為に銅板はできるだけ薄くしておき、サポート材で支持するのが良いという考え方もあります。これは木質支持体の使用についてアトリエ・ラポルトの佐藤先生から伺った意見で、金属支持体にも同じことが言えると思います。

現在までのところ、私の場合は裏面からのサポートは特にせず、額縁の裏側からむき出しの銅が見えるようにしています。下の額縁は特別仕様となりますが、一般の既成額縁でも工夫すれば同じようにできるでしょう。

copperframe_backside

 

ヤスリがけ

▲ヤスリがけした銅板の拡大画像

全ての方法に共通する作業として行うやすりがけについて述べておきます。
銅板の表面にキズを入れることで表面に塗布されているかも知れない防錆材を除去しつつ、表面積を増やすと共に物理的なひっかかりを作ってやる事で上に載る層の固着を良くする効果を期待します。
私の場合は240番程度の紙やすりを木片に巻き、円を描きながらひたすら擦るのですが、相手は金属ですからすぐにヤスリが丸くなってしまいます。常にヤスリの新しい部分で擦れるように、最近では丸棒に巻きつけた紙やすりを少しずつ回転させながら擦っています。

 

ワイヤーブラシを電動ドリルドライバに取り付けてキズを入れる事も行います。
こちらの方は表面を手で撫でた際にもザラザラとしたひっかかりを感じるほど深くえぐった様なキズが入ります。油や絵具の固着は良いかも知れません。
ただし高速回転するブラシの制御が難しくケガをする危険性がある事と、ブラシをかけている最中に銅板が反ってしまう事が多い様です。

 

銅版が反ってしまうのは下図のような理屈だろうと思われます。copper_Curvature

 

 

 

 

 

ヤスリがけした際に出来る微粉末は丁寧に除去しておきます、さもないと油と混ざった銅粉末は盛大に緑色化、もしくは鉛白地を塗る際に黒っぽく変色します。
coppergreen
▲「金属支持体 <1>」 より

銅板表面はエタノールで拭き取る事を推奨する海外作家もいて、確かに指紋が付くとそこから変色する=何かの皮膜ができるのでエタノールで油脂を除去する事は大事な気もします。しかし銅の微粉末除去にはそれだけでは不十分で、私の場合は流水でしっかり洗い流した後に、表面をエタノールで拭き取っています。
裏面に関しては変色しても見た目だけの事なので普通に素手で触っています。

 

地塗りナシの場合

銅板に直接描く

先述の処置をした後、直接描きます。下描きは炭酸カルシウムチョークで行います。銅板に入ったキズの効果で多少は絵具の乗りが改善されてるかも知れませんが、絵具が滑ってかなり描きにくいです。
地塗りをしない場合、意図的あるいは偶然の塗り残しから銅色が覗き、全体的に仕上がりが暖色寄りになります。経年によって銅色はだんだん黒くなり、緑色、寒色に移行するでしょう。

乾性油は銅を侵す性質がある様ですが、銅と油が溶け合って固着が高まるのだとするならば、銅に直接描いた油彩画が最も支持体と描画層の結合が強固であるかも知れません。 

 

フラマンによる下処理

フラマン( Flemish Siccative Medium )はルフラン社製のコーパル樹脂を含む調合メディウムです。これを塗布する事で一種の絶縁層を銅板と描画層の間に設けるという考えです。またフラマンの塗布面は強い光沢を持ちますが、乾燥過程で出来る揮発性油の抜け道と、乾性油の酸化重合時に発生したガスの抜け道によりミクロの穴が多数空いている事が想像されます。従ってこの絶縁層と上に乗る絵具層の固着は良いだろうと想像します。

あらかじめキズを入れた銅板に塗布しますが、目の粗いスポンジだと丁寧に作業しても肉眼では確認しづらいひっかき跡状の塗り残しができてしまいます。
化粧用のスポンジパフで塗る手もありますが、これは油をかなり吸収しロスが多く、現在のところ指ですり込むように塗るのが最も具合が良い様です。

乾燥後の塗面は光沢があり硬くフラットなものになるので、描画の前にやすりがけをしたほうが絵具の滑りを抑えられる気もしますがさして変わりません。あるいは表面が少しべとつくくらいで描き始めるのが良いのかも知れません。
いずれにしても直接描くのとさほど変わらない感じで、描きにくい部類でしょう。

 

 

地塗りアリの場合

下記はいずれもあらかじめヤスリでキズを入れた銅板に施します。
塗布する地塗り塗料の粘稠度により、凹凸のでき方が異なるので、そのあたりは試行錯誤が必要になります。

タンポによる叩き塗り


使い古しのシャツを丸めてタンポ(てるてる坊主のようなもの)を作り、ローアンバーと混色したリンシード練りの鉛白(シルバーホワイト)を叩き塗ります。
この手法は布に油が吸われるので油不足=接着不良となる危険性がある事に気づきました。実践する場合はあらかじめ油を吸わせるなどして固くなったタンポを使った方が良いようです。
地塗り表面には細かな布目の跡が付き、ザラザラします。
最低でも二層は叩き塗りします。

たまたま動画を撮ってましたので以下に埋め込んでおきます。

 

ローラー塗り

タンポによる叩き塗りより楽に地塗りができます。こちらもローアンバーで着色したリンシード練りの鉛白(シルバーホワイト)を最低二層は塗布。
ターレンス製のグランドローラーを使用します。
数としてはこの手法を最も多く実践していますが、タンポ同様マチエールにひびく細かな凹凸ができるので好き嫌いがわかれると思います。
凹凸を抑える方法としては
・地塗り塗料をできるだけ少なく、薄く塗り広げ、重ねる回数を増やす
・地塗り表面が乾いた段階でジュラコンローラー、金属ローラーを押し転がし均す
・メスやカミソリの刃で削る
などを試しましたがいずれも手間がかかり、後に次に紹介する手法へと移行しました。

 

ローラー塗り+ヘラ塗り

ローラー地塗りの後、ヘラで地塗り塗料を塗布し、ローラーで出来た凹凸を無くします。
これはなかなか良い仕上がりになります。

▲一層目▲二層目

完全にフラットな地とはなりませんが、多少ひっかかりが欲しい向きには推奨します。
ヘラの継ぎ目が残ったりしますので、幅広のスキージーが便利。慣れは必要ですが。

 

まとめ

描きやすさを優先するなら地塗りは外せません。
ここで紹介したのはタンポ叩き塗りとローラー塗りのみですが、ハケによる地塗りも試す価値はあると思います。むしろローラーの凹凸よりも品良く仕上がるかも知れません。

近頃は平滑な支持体に載せた油絵具のマチエールに魅力を感じましたので、地塗りはせずにフラマンによる下処理を採用する事が多くなりました。
やはりひっかかりが無いので描き始めはサクサクと行きませんし、カマイユのような事をやっていると最下層のマチエールが後に響いてせっかくの銅板のカチっとした雰囲気が出せなかったりもするので技術力のいるところです。

今後も処方は併用しながら変更を加えるかも知れません。
記事にできそうな事があったらまた追記してゆきます。

 

 

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