初版1995年と、ちょっと古い本ですが、修復や保存に関して、絵描きや収集家に意識的な問題提起をなすという意味で良い本であると思います。
国内外の絵画や文化財等の修復の実例紹介もなされていますが、ドラマチックなエピソードで読者の興味をそそるというよりは、淡々と概要が語られるに留まり、予算的な面など保存・修復のきびしい現状についても述べられ、現実的な内容となっています。
巷では絵画について語る際、とかく精神論や第六感まで持ち出される事もありますが、筆者の意見は冷静で厳しく、的確であります。
「もしも画材に対して必要な知識を持たずに描いたとしたら、自作がどんなことになるかを画家は厳しく知るべきである。絵画を扱う人、そして収集する人もまた、最低の技術的知識を備えていなければならない」
「絵画は芸術であり、そうあるべきであるが、同時に、それと両立して科学でなければならないのが大前提である。これは常識に属することと言ってよく、画家たちは画家となる途上において、一度は聞かされているはずなのに、もっぱら「芸術性」に傾いて、とかく両輪のもう一方を閉却しがちである。」
よく言ってくれました。
さて本書を読む上で特に指摘しておきたい点がひとつあります。
ゴッホが自作にヴァルールが欠如している事を指摘された事に対する反論が紹介されていますが、
「ヴァルール(色の性質)と色彩とを両方とも生かす事は不可能だ」
という文章、ヴァルールを色の性質としてありますがこれはよくある誤解で、「色の性質」ではなく「明暗」の事です。
「ヴァルール」という言葉の意味は時代を経てなぜか色の問題に置きかわって行き、日本語では「色価」などと意味不明な訳し方をされてしまって以降、現代では色の価値?…色彩の強弱、色彩調和の事…などと解釈する人が多いのですが、ヴァルールを色彩の事と思って技法書など読むと、まず理解できません。
ゴッホの文章にしても
「色の性質と色彩を両方とも生かす事は不可能だ」
などと言っても意味わかりませんが、
「明暗と色彩を両方とも生かす事は不可能だ」
これなら言ってる事もわかります。
本書では収集家の為の、保存についてのノウハウについても書かれております。
具体的には額縁前面のアクリルや裏蓋は湿気を抱え込むので不要であるという、私が常日頃言ってる事と同じ事から、コンクリートはアルカリ性の物質を長年に渡って放出するのでよろしくないなど興味深い事もサラリとではありますが触れられています。
実際には「こうすればOK」という単純な話ではなく、ケースバイケースで対応すべきで、そこはこうした書籍や色んな方々の意見を見聞きして知識を蓄積し、判断する必要があると思います。
SECRET: 0
PASS:
お久しぶりです!
今日ちょうどゴッホの修復調査に吉備国際大学に行ってきた所です。
タイムリーな話題だったので少し驚きましたが、
その本に書かれてある内容とまさしく同じ事を修復の科学者の方として来ました。
私もTORIさんの意見に同感です。
SECRET: 0
PASS:
>ホワイトさん
ご無沙汰です。
mixiの方は拝見しました。なかなか興味深いですね。
ゴッホでいうと以前下記の解析資料を見つけましたが、私は読むの断念してます。英語と化学の言葉が読めるなら見てみると良いかも
://aigaion.amolf.nl/index.php/publications/show/494
「同感です」というのは、ヴァルールの事ですか?保存の事ですか?