修復家だけが知る名画の真実

修復家による「エッセイ」で、修復について技術的な事は何も得るところが無いのですが、筆者が手がけてこられた作品群にまつわる話は各々比較的簡潔にまとめて書かれており、さっくりと読み進める事ができます。
百貨店の改装工事で壁を取り払ったら中から東郷青児の大作が出て来たとか、キャンバスの裏面の白く塗りつぶされた層を取り除くと別の絵が出て来たとか、そういう話は一般の方が読んで面白いかと思います。
この本にも書かれてますが、修復に持ち込まれた絵の下層から別の絵が見つかるという事はよくある話のようで(?)、私も同じような話を油彩画技術修復研究所に通った時分に飯田達夫さんから聞きました。
ラポルトの佐藤先生がヨーロッパで買った絵を飯田先生に見せたところ、どうも下に別の絵がありそうだと。そこで上層を除去すると、下から上のより立派な絵が出て来たという事です。
内容について、絵描きにとっては「?」…というところや、もうちょっとつっこんで伺いたい点が結構ありますが、興味深かったのはニス除去に関する話で、除去する際に使った綿棒の綿からニスを圧搾、精製、遠心分離器にかけてニスを再抽出し、それを元の絵にかけるという例。
ニス除去時には雰囲気を残す為に若干古いニスを残すそうですが、それが難しい場合は一旦全て除去した上で、上記のような手法をとるとか。
まあニスに関しては除去した方がいいのか黄変したニスの味をよしとするのか、どれくらい除去するのかなど歴史的にも議論と問題がつきまとってきた様ですが、取り去ったニスを精製して再塗布するのはちょっと行き過ぎでナンセンスな気がします。
筆者もできるかぎりオリジナルを大切にするのが修復の基本である様な事を述べておいでですが、そのニスって、絵の作者がかけたものかどうか判らんでしょう。
特に古い名画だったら何度も修復されててその都度ニスもかけ直されてるでしょうし、そもそも再溶解性の樹脂ワニスを使ってる時点で除去を前提としているので、それをそこまで手間かけて再利用する必要があるのか疑問です。
時代を経て余計なモンにまで付加価値を見いだされてしまうのも、考え物ですね。
私の作品のニスが、除去や再塗布される事が将来あるのかどうか知りませんし、あったとしてもその頃にはもうとっくに死んでるでしょうけど、除去したもんは再利用せずに新しいニスをかけてくれれば良いですから。
木枠やら額やらネームプレートやらも、いちいち保存してくれなくて結構ですので。

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