タイトルの通り、様々な画材について博物学的な見地から解説した本。
もともとは日動画廊の機関紙「繪」に連載されたコラム「絵画技法の手引き」を加筆修正し一冊にまとめたものだそうです。
実践的な情報というよりも、個々の画材についてその起源からを追って記述されているあたりがなかなか楽しめます。
最初から順番に読み進めても良いですが、画材ごとにまとめられているので気になる画材についてその都度読んで調べるといった使い方でもよろしいかと。
《 本書のもくじ 》
「絵具」とは何か ─序にかえて─ フレスコ テンペラ 岩絵の具 エンカウスティック 油絵具 油絵 ビスタとセピア 水彩とガッシュ 合成樹脂の絵具I ビニル絵具 合成樹脂の絵具II アルキッド樹脂 合成樹脂の絵具III アクリル絵具 モザイク ガラス絵 メタル・ポイント コンテ 鉛筆 木炭 | インク パステル クレヨンとパス 墨 膠 銅版画 石版画(リトグラフ) 板 I , II 石こう下地 金 羊皮紙 銅板 紙 I , II 絹 カンバス 木枠とカンバスサイズ あとがき 索引 |
冒頭はMediciの動画でも取り上げたことのあるフレスコから始まりますが、フレスコ画の基底となるモルタルが乾燥しながら顔料を固着させるメカニズムや、古くは数千年前の壁画に原型が見られる事、壁へ直接描かれた下絵のシノピアが紙の生産普及に伴い原寸大の下絵を描いたカルトーネに穴を開けて転写するスポルベーロへ発展してゆく経緯、またカルトーネは二枚使用し一枚は保存しておくという考察の紹介など、実に情報をギュッと詰め込んだ内容でお得感が満載となっています。
チョーク、クレヨン、コンテの分類上の扱いはなかなか難しいところもあるのですが、そのあたりについても丁寧に解説されています。
そしてブログ記事でも取り上げた銅板油彩に関する項では銅板の圧延に関する記述からはじまり、ド・マイエルヌ手記から引用した“銅板に油彩で描く場合の下地処理”について日本語で書かれたものは知る限りこの本のみ。
今ではかなり珍しい部類と思われる筆記具「シルバーポイント」についても勉強できます。
最後の方には別冊 美術手帖 1983年 夏/油絵 材料と表現 材料+道具総カタログにも掲載のあった「カンバスの木枠サイズ」表と共に、規格の起源と変遷などについて解説されています。
ちなみにここで書かれている、ある号数の長辺が異なるサイズの短辺になるように整えられたキャンバスサイズ規格の「各辺を組み合わせて異なる規格サイズに組み替える事ができ画材店における木枠の在庫軽減にもつながる」という利点は当初たしかにあったのかも知れませんが、縦枠と横枠で異なるほぞ切りをしているため転用組み換えができず4本セットでのみ販売する現在の日本市場においては、規格のメリットが全く活かされていないという点を常々指摘しているところです。