ニス掛けの為に里帰りしている作品ですが、ニスの他にいくつかの処理を施しました。
近所で材料が揃わなかったりなどもして、お客様には大変長らくお待たせして申し訳ありません。
さて、ニス掛けはまあ普通にアクリルニスを塗布したという事で。
ツヤ引けによる色あせを回復する効果、画面全体の質感を統一させる効果、ガスを遮断する効果、ホコリや虫のフンやカビによる画面への直接被害を防ぐ効果…などなどの為に、絶対的に必要な処置です。
次にキャンバス周囲に水張りテープを貼り、前面にも5mmほどかかる様に折り込みます。
飯田達夫さんから教わった処方です。これで額縁と画面がくっつくのを防ぎ、描画層の剥離を防止します。
くっつき防止処理した額縁がなぜ出回らないのか不思議でなりませんが、額装したら一生そのままってのが常識化してるからくっついても問題ないという事ですかね。
最後に裏面のほこりよけ。
こちらは直接教わりませんでしたが「アトリエ」誌にあった飯田先生の処方。
国産の額縁にはアクリル板や裏蓋がありますが、海外では両者とも無い場合が多いです。
私は通気の為にもそれらは不要だと思ってます(環境によりますが)ので、お客さんにも裏蓋を外す事を薦めています。
裏蓋を外して裏面にホコリがたまってしまうとカビや虫の温床となるので、保護膜としての紙を張ります。
通気の為に紙には穴を空けます。
裏面にはホコリの付着しにくい布なども良いかも知れません。布なら通気性は確保できますし。
また裏面の状態を観察できるように、通気性のある透明なフィルムなどあれば良いなと思います。
はっきり言ってここまでやるのは手間だし、「修復家の仕事じゃないのか」とも思いますが、まあこういう仕事の結果が返ってくればそれも貴重な情報になりますので。
経過などお知らせ頂けると有難いですね。
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今まで大変な努力をされてここまでの表現に達したという事がひしひしと伝わってきます。途中様々な苦労があったかと思いますが、今後益々頑張っていただきたいと願っています。
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>自称画家さん
どうも恐縮です。
努力も苦労も、比較にならないほど経験されてる方々は数多く、私のは「それなり」だろうと思います。
ムリせずに精進できればと思います。
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古画はよく紙を貼ってますが、ホコリ防止の目的なのか通気穴まで開けてるのは見ないけど、これは必要ですねえ。
ガラスと裏蓋で密閉してしまうのはまずいのに、これは今後も日本では変わりそうに
ないですな。
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>古吉さん
通気穴ナシのは、「紙は呼吸するからいい」って考えかも知れませんね。
もしくは裏紙張るのは修復家の仕事で、彼らが扱うような乾燥しきった油彩画の場合には、重合の為の酸素供給としての通気を考える必要はないという事だったんでしょうか。
いずれにしてもまだ描いて数年程度までは積極的な酸素供給が必要だと思います。
しかし修復家によってもガラス/裏蓋の要不要は意見が異なるんですよねえ。
いつも大変興味深く読ませていただいております。
私が家で保管している油彩画作品で、ガラス付きの額縁に入れてあるものは、全てカビが生えてしまいました。
しかし、ガラスを取り付けていないものは、悪い環境下で保管していた作品を除いて、全てカビの発生は見られません。
家が北陸地方で、湿気が多くカビが生えやすいこともあり、油絵の通気性には気をつけなければならないと痛感させられました。
よって、今後はガラスを取り付けないことにしています。
先生が裏蓋をお付けにならないのは、主に油絵の具を酸化させ、完全に乾かすためでしょうか。何か他にも理由がありましたらぜひ教えていただけないでしょうか。
>前田さん
コメント書き込み並びに実体験情報のご提供ありがとうございます。
やっぱそうですよねぇ、カビ生えますよねぇ…
裏蓋を付けない理由は絵具の乾燥もありますが表面同様に湿気がこもる問題があるとの判断です。裏面のカビ被害も結構多いと思います。
ただ気をつけないといけないのは、むき出しですとホコリがたまり逆に湿気とカビと虫の温床になるので何らかの対策は必要かと思います。こちらの記事に書いた処置も、キャンバス裏面の状態が目視できなくなってしまうし、穴からホコリも虫も入るため今ではあまり良くないと思っています。
販売現場では「普通は付ける」という理由から裏蓋を強要される事もあり、いろいろ考えた末に数箇所の穴を開け、いくらかの通気を確保しつつホコリと虫の侵入を避けるために和紙を貼るといった処置を施すようにしました。
現在はほとんどの作品を銅板に描いているのですが、そちらは珍しさもあり裏から銅板が確認できるという事で逆に裏蓋が無いほうが良いと感じる人が多いようで、むき出しで通しています。
近年の研究では米杉(=ウェスタンレッドシダー)から発散される成分が金属顔料へ悪影響を与えるという話も聞き及びましたので、日本の油彩画木枠にはこの木材が使われていますからやはり裏面の空気は速やかに交換されるべきであるという理由の一つとなりました。
https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-16500638/165006382005jisseki/#product_1
ただ、実際のところ油彩画は油の膜で顔料が保護されるので影響はないかも知れません。
裏蓋を外すメリットは、「湿気や米杉から発生する成分が外へ逃げる」という点ですね、、。
またデメリットも理解できました。
恐れ入りました。
こんなに詳しくありがとうございます!
ちなみに私が描いた、ガラス付きの額装をした油彩画は黒色の所にカビが集中していました。
アイボリー・ブラックはカビが生えやすいので、それは避けて、ウルトラマリン・ブルーとバーント・シェンナを混ぜて作った黒色を作りました。
しかしそれでもカビが生えました。その絵は額装してからわずか1年でカビが発生したのです。
話は少しそれますが、最もカビが発育しやすい絵の具はアイボリー・ブラックかと思えばそうではなく、土または酸化鉄を原料とした絵具の方が盛んに発育する傾向にある、、という研究結果もあるそうですね。
(http://www.fcg-r.co.jp/ipm/info/100612.html)
この結果から、バーント・シェンナを使ったのがダメだったのかな、、と考えています。
>前田さん
暗所へのカビは、一つはカビが目立つという事もあるかと思います。またアイボリーブラックなどカビやすいと明らかな絵具には防塵剤が添加されているとすると、逆にそれ以外のものの方がカビやすいという現象が起きているのも納得がいきます。
カビ繁殖比較の資料ページ、案内頂きありがとうございます。土や酸化鉄を含む絵具がカビやすいなど、はじめて聞きました。最近はローアンバーを多用しているので私の絵も危険かも知れませんねぇ。
ちなみにアルコールに不溶のアクリル保護ワニス(市販のは大抵そうかと思いますが未検証です)を塗布してあれば、その上に発生するカビは絵画面にダメージを与えずアルコールで除去できるかと思います。
多くのワニスは完成後6~12ヶ月してから塗布するように指示してあるので、塗布前の1年以内にカビてしまうようでは困ってしまいますが。
なるほど防塵剤ですか。確かにそうですね。
ニスに関しても教えていただいて、ありがとうございます。
色々気をつけなければならないことが多いですね。
ご回答ありがとうございました!