絵画で使用する材料の紫外線に対する蛍光反応をみていきたいと思います。
古い油彩画の表面を覆う天然樹脂のニス層は紫外線に対して蛍光反応を示す事が知られており、UVライト(ブラックライト)で絵画を照らすことで、ニスのない部分、つまり剥落や人為的な除去、上から加筆されている部分などを知ることができます。
※ニスの語源は英語の「Varnish(バーニッシュ)」で、これが「ワニス」→「ニス」となった様です。現在でも画材含め各分野で「ワニス」という呼び方をする場面は多々あるようです。
下記など参照下さい。
またこの件について古吉さんとやりとりした事がありましたが、自身で購入された古典絵画で試された様子をブログ記事に書かれています。
この蛍光反応はニスの成分である天然樹脂の反応で、その仕組みは知りませんが下に示す画像の通り固形状態の天然樹脂もUVライトに反応します。
実は樹脂だけではなく、乾性油自体も蛍光反応を示します。
手持ちの油を適当に並べて撮ってみました。
蛍光剤を含むキャップやラベルが邪魔してちょっとわかりにくいですが、各種油は全体的に黄色っぽく光っています。
一番左上の異様な光り方をしているのは合成樹脂ワニスです。天然樹脂のワニスとは違った光り方をするようですね。
そのうち各社ワニスの比較もしてみようと思います。
乾性油はどうも酸化した油、乾いた油の方が黄色味が強く反応する様です。
ビン底の液体より、上部で固まった油の方が反応も強く、また黄色く見えます。
下の画像は各社コールドプレスドリンシードオイルですが、気になるのは真ん中のOld Hollandの製品。これが最も黄色が強く見えます。つまり酸化が進んでいるのでしょうか。
以前からこの製品についてはツンとした酸化臭がすると述べていました。
UVライトで油の酸化度合いが視覚的に確認できるとすると、なかなか面白い事だと思います。
樹脂、油と来て、さらに顔料も蛍光反応を示すものがあります。
油絵具の塗布サンプルをUVライトで照らしてみましょう。
まずは鉛白。
これはなかなか興味深いです。
特徴的なのは中央上部のマツダスーパー。黄色味が強いですね。この製品はポピーオイルで練られたものですが、それが影響しているのか。現時点ではわかりません。
次いで左上のOld Hollandは異様に暗い。謎です。
加えて左下２つのRublev、GAZOも反応が弱いですが、これらは鉛板と酢酸の反応を利用する古典製法(スタック法)で作られたもので、特にGAZOについてはリンシードオイル以外の混ぜもの一切ナシという製品ですからこの反応が”正常”なのかも知れません。そう考えると他社の明るすぎる鉛白は、白色度を上げるために蛍光剤を添加しているのか？…などと疑ってしまいます。
あるいはこの２つが最も最近塗布したものなので油の酸化が進んでおらず、まだ反応が弱いだけかも知れません。
今後の経過を見守りたいと思います。
ちなみにチタン白は鉛白と異なり蛍光反応を全く示しません。
カンの良い方は上記のサンプルを見てお気づきでしょうが、鉛白は光っているのにキャンバスは黒くなっています。つまり鉛白を含まないキャンバス地(おそらくチタン白が主成分)である事がわかりますね。
チタンで置いたハイライトなどは通常光源では明るい白に見えますが、UVライトで照らすと光らないので逆に黒く見えます。
顔料によって蛍光反応が違う様なので、いろんな絵具を試してみると面白いと思います。
たまたま緑色の塗布サンプルを作っていたので、次はこれをみてみましょう。
画像ではほとんど反応していない様に見えますが、この中ではビリジャンが比較的蛍光反応を示すようですね。
あとはPY110を含むものが若干反応が見られるようです。これはIsoindolinone Yellow(イソインドリノンイエロー)という黄色の合成有機顔料です。
他の色もやる気が起きたらそのうち比べてみようと思います。
