日本の額縁には作品保護の為という名目でガラスが嵌められますが、近年ではガラスに代わってアクリル板が使われる事が多いと思います。
個人的には額縁にアクリル板も裏板もいらんわいと主張していますが、タバコを吸う環境にあるだとか飲食店で油が飛散する環境にあるだとか、お子さんが触る危険性があるだとかで必要な場合もあるかと思います。
しかしこのアクリル板、多くの普及品はもともと柔らかくフニャフニャ動く上に、温度変化による寸法安定性が非常に悪く、季節によってたわんでしまう事はご存じの方も多いかと。
大きい作品ほどたわみやすく、キャンバスとアクリル板の間に十分な空間をもたないと、たわんだアクリル板が作品に触れてしまったりします。実はこれが重大な問題でして、描画面とアクリル板は容易に癒着してしまい、一度くっつくとキレイに剥がす事は困難で、無理やり剥がすと冒頭の画像の様な事になってしまいます。
こうなるともう絵描きの手にはおえません。
油彩画というのは徐々に微妙に色味が変わるもので、数年たった絵の色に合わせて新たに油絵の具で補彩したとすると、今度は補彩した部分が数年経つと色味が変わってきます。写真の様な暗い部分はまだごまかしが効くかも知れませんが、段差をどう埋めるのかとか、油絵の具だけでは解決できず、「ごまかし」以上の仕事を望むなら修復家にお願いするしかありません。
よくよく観察すればくっついてしまっている部分は見分けが付くのですが、パッと見は判りにくいものです。
そのまま放っておくと気温が下がってアクリル板が縮んだ時、自動的に描画層を剥がす事になるので早急な対応が必要です。
特にこれからの冬場、ファンヒーターなど暖房機器の温風が直接当たる様な所へ置くのはキケンです。
十分にお気をつけ下さい。
さて冒頭の画像をよく観察してみますと、目止めを残して地塗り層から全部キレイにもって行かれています。
地塗りと描画層の食付きが悪いとか、途中の層が貧弱だったりした場合はそこで剥がれるでしょうから、この作品では最下層から最上層まで、しっかりと食い付き良く描かれていたんだなと思います。
この様に無理矢理描画層を剥がして、描法やメディウムの物理的耐久性を調べるという事をやってみたいと以前から考えてはいるのですが、なかなか面倒でやりだせていません。
いずれそういうデータを多く集積する為に、研究所的な要素をもつ教室ができればなあと常々思います。