フェルメールの地塗り

新年一発目は古吉さんのブログで挙げられてました、フェルメールの地塗りについてです。
「美の巨人たち」で修復家がフェルメールの技法を再現するシーンで使っていたキャンバスの地塗りの色は、当方の環境では若干赤みを帯びた、比較的明るめな感じの有色地に見受けられます。
当方の最近の処方であるローアンバー+白にかなり近い気がしました。

▼フェルメール「絵画芸術」に描かれたキャンバス(板かも知れませんが)
 

▼以下画像は使い回しですが、修復家が使ってたキャンバス。下描きも「絵画芸術」に倣って白チョーク?
▼当方が最近使っている地塗り=ローアンバー(ニュートン)+鉛白地塗り材(Williamsburg)

まあ、モニター上の色を比較してもどーにもならんのですが。

さて本題であります、フェルメールが実際にどのような地塗りを使用していたか、その科学的研究資料があるのかという事ですけども、比較的すんなり見つかりました。
どメジャーサイトでありますナショナルギャラリーに。

上記サイトでは地塗りのみならず、メディウムやら何やら多岐にわたってかなり詳細な資料が得られます。
ちょっとずつ翻訳して紹介して行ければそれだけで当分ネタには困らないでしょうけど、たぶん気力が続かないでしょうからヘタな事は言わずに今回はとにかく地塗りについて。

こちらを見ますと、一番上にあるキャンバス裏側の画像が目につきますが、たぶんこりゃオリジナルじゃなくて後世裏打ちされたものじゃないかと思うんですけど英語わかる方どうぞよろしく。

記事を読み進めますと地塗りに使われた顔料についての記載があります。
ヴァージナルの前に立つ女」と「ヴァージナルの前に座る女」は非常に似た地塗りが施されており、チョークを混ぜた鉛白、土性顔料、骨炭、チャコールブラック(木炭?)から成り、結合剤はリンシードオイルとの事。
そして両者とも二層からなり、下層は淡い灰褐色、上層は明るくピンクがかった茶色で下層よりも土性顔料が多く黒が少ないとの事。

下の画像は「ヴァージナルの前に立つ女」の断層顕微鏡写真ですが、どこまでが地塗りなのかよく判りませんね。
一番上は着彩の層だとして、地塗りと思われるベージュっぽい色の部分も、気のせいかたまたまそう見えるのか、注意深く見ると赤の点線を入れた様に3,4層に見えます。
まあ「二層」といっても生乾きの上に同じ塗料でもう一度塗ったものも「一層」扱いしてるんでしょうか。どっちでもいいですけど。

対して「ギターを弾く女」と「音楽の稽古」は淡い灰褐色による一層の地塗りで、外見的には前述2作品の一層目と似ているとの事。

上の画像は「音楽の稽古」の部分、淡いグレーの壁が描かれた部分だそうで、微妙ですが上の着彩層と地塗り層らしき境目が見て取れます。
しかし一方、倍率が異なる同じ部分(上の画像の左寄り部分)の電子顕微鏡画像が下になりますが、少なくとも4層は確認できます。
カラーだと一つの層に見えた着彩層が二層からなり、おそらく地塗りじゃないかと思われた部分も厚い層と薄い層から成っていますよね。
ちなみに黒い大きな塊はチョーク。


二層塗りのものは色調を変える目的でフェルメール本人か、フェルメールの注文で業者によって施されたものじゃないかとの事ですが、どちらにしろ比率の違いのみで含まれる成分は同じっぽい事から同じ人の手によるものとみた方が自然かなと思います。
断層写真ではさほど違わない二層間の色調差が実際はどの程度違うのでしょうか。
自分の経験から言いますと有色地を作る場合なんかその都度適当に色混ぜて塗りますから、布目を潰す目的で二層塗ったとしても、上下層間で色が違うなんて事は普通に起こりえますから、この点だけ見て一概に色調を変える目的で多層塗りにしたと断定する事はできません。

ド・マイエルン手記を引き合いに出し、チョークと鉛白からなる地塗りの処方を’céruse commune'(一般的な鉛白?)として説明しているらしい文章も見受けられますが、セリューズと言ったら純粋な鉛白による高級な地塗りを指すものではなかったのか、チョーク(白亜)の混入は単なる増量剤ではなく、よほどの利点があるのか… なんせ金と等価であったなどとも言われるウルトラマリンを惜しげも無く使う作家ですから、単純に地塗りをケチってチョーク入り鉛白を使用したとも考えにくいので…など、ちょっと調べてみたいと思う所です。
というかセリューズについては出典が書かれてますんで英語読めれば楽勝なんでしょうね。

ナショナルギャラリーでは前述の4作品の地塗りについてのみ言及され、肝心の「牛乳を注ぐ女」の地塗りがどうなのかは判りませんが、他の作品の資料も探せばどこかで見つかるかも知れません。
それはまたその時に。

他にも色々興味深い事が書かれている様ですが、私個人の翻訳能力もままなりませんし今回はこの辺で。

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