ラピスラズリから精製する天然ウルトラマリンについては度々の記事化ならびにMedici動画にて実演したりとクソド素人のくせに通ぶっておりますが、二十数年来にわたって天然ウルトラマリンを抽出精製しているというホンモノの顔料職人、吉川聡さんと接触する機会がありました。
なんでも当方のしょーもないアイデアを実用化し、これまでにない最高純度のウルトラマリン精製に成功されたとの事。
ご本人の談によると肉眼で確認できる差異は無く自己満足でしかないとの事ですが、大層感謝されまして「お礼になにか…」と仰いますので、厚かましくもこれまでに抽出されたウルトラマリンを是非見せていただきたい!と、分けて頂きました。
ほんのサンプル程度と思ってましたらかなりの量をお分けいただき恐縮至極。
細かい顔料の割にこの色。相当良いものだとすぐ判ります。
私が抽出した中で最も良い発色のものと並べてみましょう。
微妙ですが、私のサンプルの方が濃く見えます。
ただしこれは顔料の大きさによるもの。
天然ウルトラマリン顔料は粒子が大きいほど発色が良く、細かくなるほど色が失われるというのはチェンニーノ・チェンニーニが言った通りで、私のものは粒子の粗さでこの色を保っているというだけの事です。
そして極めつけのこちら。天然ウルトラマリン・スペシャル。
これには驚きました。
まるで合成ウルトラマリン。ありえない発色です。
ラピスラズリからの抽出を経験した事がある者ならこの色に度肝を抜くこと間違いありません。先程の私のサンプルと並べてみると、もはや次元の違いを感じます。
なんというキメの細かさと青の濃さ。
かつて金と等価で取り引きされたと言われるものよりも良質なのではないかという気がします。
天然と偽った合成ウルトラマリンではないかとも疑いましたが、よく観察すると方解石のキラメキが少し残り、粒子径も合成よりは大きい事が判ります。
吉川さんによると頂いた2つの天然ウルトラマリンは油で練った場合さほど違わないとの事。たしかに油を足すと色は濃く黒っぽくなり色相も変わりますので顔料の状態で見られる鮮やかさは失われます。後者のスペシャルに関しては、ホルベイン✕東京藝大が作った「本瑠璃」がそうであったように、水性塗料に使う方が良いという判断もある種正解かなと思うところです。
ちなみにこの天然ウルトラマリンスペシャルから作られた水性固形絵具を後にみせて頂きましたが、1gあたり1万円と金の倍の値段で売られる「本瑠璃」よりもあきらかに良い色でした。
まるで油絵具にすると天然ウルトラマリンの色が悪くなるような印象を持たれても困るのですが、顔料と油の屈折率による透明性、色の深みを生かした表現というのは、やはり油彩でしか得られないものがあります。
その見本には全くなりませんが、早速頂いた天然ウルトラマリン・スペシャルをほんの少し、耳かき一杯取り出して、油で練ってメディウムを足し、制作に使わせていただきました。
動画の最後にも注釈入れてますが、せっかくの濃い青の上から方解石やパイライトの描写の為に不透明な色を載せてしまってますので、これは超高級・高品質な天然ウルトラマリンの使い方としてはけしからん例である事をあらかじめお伝えしておきます。
そのうちこの青をもっと活かした良い作品を描きます…。
「天然ウルトラマリン」をキーワードにネット検索した事のある方ならピンと来られたかも知れませんが、この品、「絵具屋三吉」で買える下記の商品と同一のもの。
8gで14,688円、スペシャルの方は21,600円…。金より安い!
万単位の高価な顔料でありながら常に売り切れという人気商品。
誰がどんなところに使っているのか、非常に気になります。
常時在庫切れではありますが、製造出荷元となる吉川さんによりますと「遅くとも一月待てば買える」との事ですから、欲しい方はお早めの注文を。