各社シルバーホワイト

日本ではリンシード練りのシルバーホワイトといえば油一(ヴェルネも?)くらいしか見かけませんが、世界を見渡すとよりどりみどり…とまではいかないまでも、結構各社手に入ります。
今回はそれら含め、手持ちのシルバーホワイト群をご紹介。

そのまえに鉛白の呼び名についてのうんちくをば。

日本ではほぼ「シルバーホワイト」と固定で呼ばれますが、海外ではCremnitz White(クレムニッツホワイト)、Flake White(フレークホワイト)、Lead White(レドホワイト)などと呼ばれます。

Cremnitz Whiteは現チェコの工業都市クレムニッツから取った名ですが、実はそこでは鉛白は作られておらず、実際にはドナウ川沿岸のクレムスから供給されていたとの事。(デルナー本より)
本来「クレムニッツ法」と呼ばれる製造法によって作られた鉛白だった様ですが、1938年以降クレムス白は製造されていないそうで、現在は名前のみが残っている状態。

Flake Whiteは粒子が板状だった事からこの名が付いたそうですが、現在はそんな事どうでもよいらしく、鉛白と亜鉛華の混合絵具がこう呼ばれる場合がほとんど。(Williamsburgでは「Silver White」は鉛白+亜鉛華で、Flake Whiteは鉛白のみとなっている)

Lead Whiteは「鉛、白」で直感的に分かりやすいといえば分かり易いですな。仏語ベースの飯田達夫さんに「レドホワイト」は通じませんでしたが。

では以下各種鉛白の紹介とちょっとした所感。
感触や乾燥速度などはメディウム添加せずフナオカ中目キャンバスに塗った状態ついて述べています。

RUBREV (Natural Pigment社) Lead White 1
極限まで添加物を除いたとのうたい文句。シルバーホワイトについてはリンシード練りとウォルナット練りがある。手持ちのはリンシード練り。

チューブの最初は油が多く、黄色い油の膜が張る。使うにつれて油分が減り硬くなり、ツヤと黄変度も減る。
ねばりがあってキャンバスにしっかり食いつく感じ。
4月時点で翌日には指触乾燥。

春蔵絵具 シルバーホワイト
練りにこだわっているとの事らしく、柔らかく伸びが良い。反面、顔料径が一律に小さいのか、全般的に透明。
シルバーホワイトはポピー練り。
透明で柔らかすぎてパートつくりには向かず、グレーズかヴェラチューラみたく使うしかないといった感じ。
乾燥が異様に遅く、4月時点で厚い部分は指触乾燥に10日以上かかった。
黄変は少ない。

油一 (ホルベイン) レド・ホワイト
純粋なリンシード練りの様で糸を引く粘り気がある。
しかしこちらも練りのせいか、透明で薄く、パートとして弱い。
乾燥が異様に遅い。4月時点で指触乾燥に10日以上かかった。

BLOCKX シルバーホワイト
ベルギーのメーカー。やや柔らかい練りでシルバーホワイトにしてはさらりとした感じ。
ポピー練り。
4月時点で4日で指触乾燥。
黄変は少ない。

マツダスーパー (マツダ油絵具) シルバーホワイト
少し硬めの練り。ポピー練り。最も白い。
乾燥は早く、4月時点で翌日には指触乾燥。

ミノー (クサカベ) シルバーホワイト
一旦販売中止になって再販されたミノーのシルバーホワイト。
キャンバスへの食いつきもよく、粘りが強く厚いパートを置ける。感触は他と一線を画す「異様さ」で良好。
光沢も強く乾燥も早い。4月時点で翌日には指触乾燥。
乾燥後も若干弾力を感じる。
練りに加工油を使用しているとの話もあり、非常に興味深い製品のひとつ。

クサカベ ファンデーションホワイト
地塗り用の白だが比較の為に。
リンシード練り。チタンが入っている割にマツダスーパーより若干暖色寄り。
乾燥は早く、4月時点で翌日には指触乾燥。

OLD HOLLAND CREMSER WIT(CREMNITZ WHITE)
オランダ製。割と白く、練りはあっさり。淡泊な感じ。
5月時点で2日目に指触乾燥。
チューブが重く、純度は高いんじゃないかと思われます。
メーカーの解説によると全色 風車を使って抽出したリンシードオイルで練られている。

Williamsburg (GOLDEN社) Flake White
ニューヨークで自分と友人の為に絵具を作り出したのが駆けだしというメーカー。
リンシード練り。
チューブから出す時は硬く感じるが、ナイフで練るとねっとり感が出るが油一ほどではない。
暖かめの白。
5月時点で2日後には指触乾燥。

MICHAEL HARDING Cremnitz White 1
創業30年ほどのイギリスのメーカー。
リンシード練り。
油の量が多く最も軟練り。分離も黄変もひどい。
油のおかげでなめらか。
5月時点で2日後には指触乾燥。

黄変の度合いというか、黄味の具合をみてみます。
直射日光の入らない部屋(蛍光灯点灯)で、塗布後2~3ヶ月後の状態です。
黄味が強い順に
MICHAEL HARDING → RUBLEV → クサカベ → 油一 → Williamsburg = OLD HOLLAND → ミノー → BLOCKX → 春蔵 → マツダスーパー

光沢についてはミノーが異様にテカテカで、次いで油が多く黄変もひどいMICHAEL HARDING、続いてWilliams burg、OLD HOLLANDと、それ以降はどうも言い難く、最もツヤのないものは春蔵です。

なお、上記は当方の簡易的なテスト結果なので、下地や気温・湿度、風通しや日当たりなど様々な要因で結果が激変する可能性がある事を述べておきます。
また経験的にチューブの最初と最後ではかなり油の量など違ってきますので、特に黄変具合や乾燥速度が同じチューブでも変わる可能性は大です。

ちなみに鉛白の乾燥速度について、海外の掲示板への書き込みによると、
「古典的な手法による鉛白の抽出では酢酸鉛が入るので乾燥が早い。
近代的手法では比較的乾燥は遅い。」
との事。

今の鉛白はほとんど全て電気分解法とかいう手法による純粋な鉛白抽出法かと思われますが、油一と春蔵が突出して異様に乾燥遅いのは何なんでしょうかね。

[2011.10.24追記]
最近MICHAEL HARDINGの鉛白を中心に使ってますが(225mlチューブと量が多かった為)、案の定チューブから出す絵具が堅くなって来ました。
油の量が減ってるので、黄変もテスト時より少ないと思います。

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“各社シルバーホワイト” への6件のフィードバック

  1. こりゃまた貴重な有り難い情報ですね。

    古典絵画の白がどの程度黄色がかってるのか、機会があったらこれを持って行って
    比較していただけるとさらに有り難いです。
    2011/06/29(水) 21:05:00

  2. いつも貴重な情報有り難うございます。
    各絵の具会社の白の参考になります。

    個人的な感想ですが
    インパストには体質顔料を入れた方がかなり効く様になると思います。
    チューブ入り白のみだとやっぱり弱いですよね。
    私の先生曰く、レンブラントの時代の白にはFlake whiteは鉛白に体質顔料を加えた鉛白の廉価版として売られていたらしいですが、修復調査結果からレンブラントの白に含まれる体質顔料の量は場所によって異なってるらしく、推測ですがアトリエで盛り上げたい場所によって練り合わせてたんじゃないかとのことです。

    ポピーは厚く塗ると「戻り」と言う現象が起きると以前修復家の先生から伺いました。

  3. >古吉さん
    展覧会の会場は暗いし照明が黄色いので色味の具合が判別できるかどうかと、かなり近づいて見ないとニス焼けやよごれの具合も判らないでしょうから難しいかも知れませんね…。
    ひとつコンパクトなのを作ってバッグに携帯しときましょうか。

  4. >ホワイトさん
    こちらこそ情報どうもです。

    密度の高い白を置こうと思うと油少く余計な添加物は無い方がいいと思いますが、厚みのあるパートを優先させると体質顔料入れた方がやりやすいって事ですかね。
    そこらで売ってるチューブ入り鉛白はそのままで充分盛り上げ可能なので体質顔料入れても薄くなるだけじゃないかという気もするんですが…。

    戻りの原因は乾燥遅いからですかね。
    特に日本ではほとんどがポピー練りな鉛白って、危険なんですかねぇ…それとも鉛白は乾燥早いし堅牢だから平気という事なのか。

  5. しかしよく集めたもんだね。私は今はマツダとBLOCKXを主に使ってます。やはり目方が重い方が鉛たっぷり感がありますし。バニラアイスで言うと動物性脂肪と植物性脂肪ぐらいの差がある気がします。私は前者のが好みですが体に悪い所も似てるかも。RUBREV、OLD HOLLANDは食べて、もとい、使ってみたいなー
    ちなみに今パリで研修中の小尾修さんのブログが面白いよ。

  6. >karu氏
    BLOCKXはかなり乾いた時点で指でごしごしこするとポロポロ小さいクズが出て来るので、なんか弱いかなという気がしてやっぱ堅牢性で云うとリンシード練りかなと。
    個人的にはRUBLEVがやはり秀逸だなと思っとります。
    かなり黄色くなるけど。

    小尾さんのブログはチェックしとります。
    画像が小さいのが残念だけど、なかなかグっと来る内容で楽しませて貰ってます。

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