「西洋絵画の画材と技法」の管理人さんから情報を頂きまして、先日東京で開催された「文化財をまもる-日本における「西洋画」の保存修復-」ってシンポジウムに参加して来ました。
今回講演された方々の中では歌田眞介さん(油絵を解剖する―修復から見た日本洋画史 (NHKブックス))、山領まりさん(山領絵画修復工房「絵画修復報告 7:和田英作《マダム・シッテル像》の修復」)、森田恒之さん(「画材の博物誌」「絵画材料事典」)のお三方が、本の中で知ってる方々でありまして、まあそうそうたる感があったわけであります。
ただ描き手にとってただちに有用な情報というものはあまり無く、我々にとってはいかにして堅牢な、あるいは修復に耐えうる画面を構築するかがテーマなのですが、会の方々はすでに目の前に修復が必要な作品が存在しているというところが立脚点であって、いかに修復すべきか、いかに残していくかという思考の様で、いまいちこちらサイドとは噛み合わない感を持ったのは私だけではなかった様です。
内容の多くは本で知り得る情報のおさらいでしたが、個人的には脂派の作品がキシレン、トルエンなどへも耐性を示すという試験表のスライドや、森田さんによる金属顔料の異種接触により発生する電流がヒビに影響を与えるのではないかとの仮説が興味をそそられました。
貴重な作品に最先端の高度な技術でもってあたる話もいいですが、個人的には町医者も必要だろうと思ってます。
ネットの掲示板などでもなにかあると「素人は触るな、専門家にみせろ」という意見ばかり見ますが、修復が必要な全ての作品が専門家のところにどっと押し寄せれば絶対に修復家が足りないわけで、料金もいくらかかるかわからないようなところに相談するという心理的的なハードルもあって、結局放置され朽ちていく作品がほとんどであるのが現状ではないかと思われます。
「お絵かき教室」はどこにでもあるんだから、修復教室もあっていいんじゃないか、いやむしろ描く事と併せて最低限の保存・修復の知識と技術が伝えられても良いんじゃないかなどとも思いますけどね。
この場合は町医者というより民間療法でしょうか。
絵画を教える教室で簡単な修復にでも触れてるところって、飯田さんの研究所やその後身(というと語弊があるか)であるアトリエ・ラポルト以外にいくつ存在するんでしょう。
修復の研究対象といえば、芸大などでは昔の生徒の課題作品を修復の授業で使っているという話も出まして、芸大みたいな(国内では)歴史の長い機関には各時代の良い作品・悪い作品が残ってるでしょうからそりゃあ理想的な環境だなと目からうろこでありました。
そうやって過去の堅牢な作品にもひどい描き方されてた作品にも実際触れながら研究ができているのですから、現在の芸大ではさぞ堅牢な油彩画が描ける指導がなされているはず…なんですけど実際どうなんでしょう。
ここでも修復と製作の間に隔たりがありそうな気がしないでもありません。
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絵画修復報告〈No.7/2006〉油絵の修復―和田英作『マダム・シッテル像』
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